味方を射た青旗

クゼインが軍議室から追放された翌日の初陣で、王国軍は敵兵ではなく自軍の騎兵を射た。

丘の上で将軍マルドゥが青旗を掲げた。意味は「左翼前進」。谷底の弓兵隊はそれを見て、一斉に矢を放った。

青旗が二度翻った時は「前方へ斉射」だったからだ。

強い横風の中、旗は掲げただけで二度翻って見えた。矢の雨は左翼から駆け上がった味方の騎兵へ落ち、先頭の馬が倒れる。進軍は一刻もせず止まり、敵は一兵も失わず砦へ引き返した。

「旗手が未熟だった!」

マルドゥは怒鳴ったが、旗手は青ざめて答えた。

「昨日までは、合図の前に白旗を三呼吸だけ出していました」

それを決めたのがクゼインだった。風で旗が暴れても、白の予告、色旗、太鼓一打の三つが揃わなければ攻撃しない。地味で遅いと将軍は嫌い、追放と同時に手順書を破棄させた。

一つの合図を速くした結果、負傷した騎兵は四十七人。谷に落ちた軍旗を拾うため、さらに二隊が足止めされた。

矢を受けた騎兵隊長は命こそ助かったが、愛馬を失った。敵は丘の上から混乱を見て、青旗を一度振るだけで王国軍を止められると知った。翌日には偽物の青布が谷のあちこちへ掲げられ、軍は自分たちの合図すら信じられなくなった。

負傷者名簿の一番上に旗手の名が書かれた時、将軍は初めて気づいた。クゼインの手順は遅さではなく、命令の持ち主を証明するためのものだった。

同じ時刻、クゼインは辺境砦で新兵百人を向かい合わせていた。

「合図は、伝える側が分かるだけでは足りない。受ける側が間違えられない形にします」

彼が作った予告旗と鐘の組み合わせで、霧の中でも五隊が一度も進路を違えなかった。砦司令シヴァナは、その場で彼を臨時雇いから軍務参謀へ昇格させた。

「慎重なのではない。味方を敵にしない速さを知っているのだ」

夕刻、王国軍の伝令が泥だらけで現れた。将軍は過失を不問にする、明朝までに戻り信号体系を直せ、と命令書を差し出す。

クゼインは軍議室を追われた時の解任状を重ねて返した。

「旧軍との参謀契約は、解任印が押された時点で終了しています」