四人で帰る約束

 真鳥章吾が十二歳の夏、家族四人で海辺の町へ旅行した。

 出発前、母は何度も言った。

「何があっても、四人そろって帰ろうね」

 二日目の夜、祭りの人混みで六歳の妹が消えた。

 両親と章吾は夜通し捜した。浜辺には妹のサンダルが片方だけ落ちていたが、警察へ届けようとすると、父は「もう少し家族だけで捜す」と言った。

 明け方、父と母が女の子を連れて戻ってきた。

 妹と同じくらいの背丈だった。妹の黄色い上着を着せられ、母に手を握られている。けれど髪は短く、妹の頬にあったほくろもない。

「この子、違うよ」

 章吾が言うと、母は強く腕をつかんだ。

「怖い目に遭って、覚えていないだけ。今日からまた思い出せばいいの」

 女の子は自分を桃子だと言い、泣きながら「お母さんのところへ帰して」と訴えた。

 父は車の後部座席へ押し込み、子ども用ロックを掛けた。

 帰りのサービスエリアで、テレビに行方不明者のニュースが流れた。

〈祭り会場で消息を絶った阿南桃子さん、六歳――〉

 画面には、車内にいる女の子と同じ顔が映っていた。

 父はすぐにテレビの電源を切った。

「四人で帰ると約束しただろう」

 それから女の子は妹の名前で呼ばれ、妹の服を着て、妹の小学校へ通った。両親は「旅行中の事故で記憶が混乱した」と説明した。間違った名前を口にすると、母は食事を与えなかった。

 章吾も何も言えなかった。

 家族は以前と同じ四人に見えた。

 二十年後、母の葬儀を終えた夜、妹として育った女性が、母の机から古い封筒を見つけた。

 中には二枚の新聞記事があった。

 一枚は、阿南桃子の捜索記事。

 もう一枚には、旅行先の岩場で発見された身元不明の女児について書かれていた。黄色い服の名札は切り取られ、片方の足にだけサンダルを履いていたという。

 記事の余白に、母の字があった。

〈あの子を見つけた。でも、このままでは三人になってしまう〉

〈代わりの子も迷子だった。これなら約束を守れる〉

 女性は長いあいだ記事を見つめたあと、章吾へ尋ねた。

「私の家族は、まだ旅行先で私を待っているのかな」

 章吾は答えられなかった。

 仏壇の上には、帰宅した日に撮った家族写真が飾られていた。

 父と母と章吾は笑っている。

 妹の黄色い服を着た桃子だけが、写真の外へ助けを求めるように手を伸ばしていた。