四人目は声を出した

霧生杏理は、迷わず「帆足由宇」と告げた。

国東陸生と富来玲司は、聞いたことのない名に顔を見合わせる。天井の声だけが沈黙した。

規則は一つ。

〈開始音以後、この部屋へ声を届けた人間を参加者とする。参加者から犠牲者を一人指名できれば、他の参加者を解放する〉

開始音から三分、三人は誰も口を開かなかった。声を出せば心理を読まれると思い、身振りだけで互いを牽制していた。壁の人数計は三のまま、無音の波形だけを並べている。首輪のマイクが、咳一つまで参加登録に使うとわかっていたからだ。だから三人は、呼吸さえ浅くしていた。

すると天井から、苛立った男の声が落ちた。

『黙っていても時間は減りますよ。誰かを選びなさい』

杏理はその声を待っていた。

搬入時、制御卓の脇に置かれた宅配箱を見た。宛名は〈帆足由宇様〉。箱から聞こえた試験音声と、いまの司会の声は同じだった。加工されていても、語尾で息を吸う癖までは消えない。

『私は主催者であり、参加者ではない』

「規則の定義は肩書きじゃない。開始音のあと、この部屋へ声を届けた人間」

杏理が天井を指すと、音声認識窓に四本目の波形が現れた。

〈話者四、登録〉

〈声紋照合――帆足由宇〉

玲司が乾いた笑いを漏らす。

「自分で参加したのか」

『進行のための発言は除外される!』

「除外すると書かなかった。私たちを急かしたかったから、黙っていられなかったんでしょう」

残り五秒。杏理は指名ボタンを押し、もう一度その名を言った。

「犠牲者、帆足由宇」

〈参加者への指名を確認〉

三人の首輪が外れ、天井裏で別の拘束装置が作動する鈍い音がした。由宇の声が途切れ、代わりに短い悲鳴が響く。

陸生が出口で杏理に尋ねる。

「もし主催者が最後まで黙っていたら?」

「そのときは三人で別の手を考えた。でも、この人は沈黙に耐えられない。私たちが疑い合う声を商品にしたい人だから」

扉が開く。

杏理は無言のまま外へ出た。最後に言葉を浪費した者だけが、部屋へ残った。