四十七頁のデルフィニウム
戸守灯佳が組んだ「雨の日に読む青い本」フェアは、店長から失敗だと言われていた。
駅前書店の小さな平台。売上表では、選んだ十二冊がほとんど動いていない。店長には「感覚だけで棚を作る段階は卒業しよう」と言われ、来月から文具担当へ戻す話まで出ていた。灯佳は閉店後も紹介カードを書き直し、自分の好きと仕事の数字が両立しないことを初めて恥じた。
ところが毎週水曜、開店すると平台の中央に青いデルフィニウムが一本置かれていた。青は雨の日の蛍光灯の下でも、妙に鮮やかだった。
常連で青い本ばかり買う鴻上、朝番の同僚・犬塚、出版社の営業で毎週来る脇坂。送り主らしいのは、その三人だった。
花はパン屋のワックス紙に包まれていた。茎の一部には、レジ脇の値札スタンプと同じ赤いインク。さらに花が置かれる日は、フェアの本の四十七頁に挟んだ灯佳の紹介カードが一枚だけ減っている。
「これ、贈り物じゃなくて、しるしですね」
灯佳が朝礼後に言うと、犬塚は観念したようにレジ下から花束を出した。
この店の売上集計は、出版社別でしか出せない。犬塚は灯佳の平台から本が一冊売れるたび、紹介カードを回収し、翌朝一本だけ花を置いていた。赤いインクは、売れた本の値札を押し直したときについたものだった。
「店長に何を言われても、実際には読者が選んでるって伝えたくて。でも僕が励ましたら、慰めみたいになるでしょう」
犬塚は先月、灯佳の企画に反対していた。そのこともあって、正面から「よかった」と言えなかったらしい。
灯佳は保管箱を開けた。回収された紹介カードは七枚。カードの裏には、買った客がレジでこぼした短い感想まで犬塚の字で残されていた。売上表の分類違いで、フェアの数字に入っていなかった。
その日のうちに集計は直され、平台の期間は一か月延びた。閉店後、灯佳は隣のパン屋で青い紙に包まれたクロワッサンを二つ買った。
一つを犬塚へ渡し、自分も端をかじる。
「八本目は、ちゃんと一緒に喜びましょう」