四杯目は司会者のもの

 轟木悠臣は、司会者の手元から金の杯を奪った。

 仮面の男の笑みが、初めて消える。

 円卓には四つの杯があった。参加者は三人。悠臣の前に赤、看護師の前に青、詐欺師の前に緑。そして司会者の前に金。

《卓上の杯から一つを選び、同時に飲め。毒を避けた参加者が通過する》

「それは演出用だ」

 司会者が低く言った。

「でも卓上の杯だ」

 悠臣は金の杯を自分の胸へ引き寄せた。天井の判定灯は赤くならない。看護師と詐欺師の目が一斉に残る三杯へ落ちた。

 詐欺師が赤を奪い、看護師は青を選んだ。緑だけが残る。

 合図と同時に、悠臣は金の酒を飲んだ。上等な葡萄酒だった。青を飲んだ看護師も倒れない。赤を空けた詐欺師だけが、笑顔のまま椅子から滑り落ちた。

『通過者、轟木悠臣、国府田葉月』

 司会者は無言で悠臣を睨む。

「どうして金が安全だと?」

「あなたが乾杯のたびに、それへ口をつけていたから。毒の場所は知らなくても、あなたが死なない杯なら分かる」

「私が飲むふりをしていただけかもしれない」

「その場合でも規則は満たす。俺はあなたの杯を選んだ。中身が空なら、毒も飲まない」

 看護師の葉月が、ようやく息を吐いた。

「三人に四杯を見せたのは、余った一つを罠だと思わせるため……」

 悠臣は入場から司会者の動作を数えていた。金の杯には三度口をつけ、毎回同じ高さまで酒が減っている。空飲みの演技なら、液面までは揃わない。安全性を確信したのは、その几帳面な減り方だった。

「違う」

 悠臣は金の杯を司会者の前へ戻した。「主催者は、自分を数に入れない癖があるんだ。安全な高みから、人間の本性を観察するつもりだった」

 仮面の奥で歯が鳴った。金の杯を置く手も、わずかに震えている。

 勝者の扉が開く。

 葉月は悠臣の後ろで、金杯の酒量を確かめた。残り香に薬品臭はない。司会者の安全を疑わず、参加者の三杯だけを疑わせる配置そのものが、このラウンド最大の毒だった。

 悠臣は通り抜ける直前、振り返った。

「次のラウンドでは、部屋にいる人間をちゃんと数えろ」