四角い卵焼き

桐谷澄佳が外出許可の日に帰った部屋には、妹の脱いだ靴が二足、玄関で重なっていた。妹は夜勤明けで眠っている。澄佳の用事は、夕方に持たせる弁当を一つ作ることだった。

病院からは、生ものを避け、疲れたら中止し、午後三時までに戻るよう言われた。台所の時計は十時四十分。澄佳は椅子を流しの前へ運び、座ったまま米を研いだ。水が白く濁り、手首の識別バンドが濡れそうになる。袖を折って隠した。

冷蔵庫には卵が二個、昨日のひじき、半分の人参。妹らしい、食べられるものだけが残った冷蔵庫だった。澄佳は卵を溶き、砂糖を小さじ一杯入れた。昔は妹が甘い卵焼きを嫌い、塩味にしろと何度も言った。今は夜勤の朝だけ、甘いものを食べる。

フライパンを傾ける腕が続かず、一巻き目は斜めになった。箸で押すと端が破れ、黄色い中身がのぞいた。澄佳は笑いそうになり、咳に変わった。失敗した部分を中心へ隠し、二巻き目を重ねる。四角くなくても味は同じだが、今日は四角くしたかった。

炊き上がるまでの間に、人参を細く切って電子レンジへ入れた。ひじきは小さな紙カップに詰める。豪華なものは作らない。唐揚げを揚げる体力も、長い手紙を書く気もなかった。妹が休憩室で蓋を開け、いつもの弁当だと思えばよかった。

寝室から物音がして、妹が一度だけ顔を出した。

「帰ってたんだ」

「まだ寝てて」

妹は何か言いかけたが、鍋の蒸気を見て引っ込んだ。澄佳はその背中を追わず、卵焼きの端を切り落とした。味見はしない。切り口に黄色い層がきれいに重なっている。

弁当箱へご飯を半分、ひじき、人参、卵焼きを順に詰めた。隙間には冷凍枝豆を二つ置く。妹は梅干しを嫌うので、赤いものは人参だけでいい。

澄佳は弁当箱の底についた水滴を布巾で拭いた。箸箱には、長さの違う箸が一本ずつ入っていたため、同じ柄を探して引き出しを二段開けた。蓋が浮かないよう、一度指で押さえる。

白い留め具を左右から倒すと、二つの音が続いた。最後の一つが、きちんと鳴った。