回復ではなく昨日を消す
《歌澄レイの隣が新人治癒師? 接待企画か》
《屍竜は回復魔法を餌にするんだが》
《一回でもヒールしたら全回復されるぞ》
人気攻略者・歌澄レイの大剣が、屍竜の肋骨を三本まとめて折った。だが青白い炎が傷口をなぞると、骨は即座に繋がる。レイの肩では、先ほど受けた毒爪の傷が黒く脈打っていた。
「七瀬くん、私には使っていい。竜には絶対かけないで」
「分かりました。治す相手を間違えません」
治癒師の七瀬凪人は杖を下ろしたまま、戦いを見ていた。屍竜が翼を開く。墓地一面から傷ついた骨兵が起き上がり、その損傷が竜の身体へ吸い込まれていく。
《屍竜は周囲の負傷履歴を再生資源に変える》
《レイの毒傷まで吸われたら永久再生モード》
《新人、棒立ちで共闘になってない》
レイが膝をついた。屍竜の顎が迫る。
凪人はそこで初めて杖を振り、墓地全体へ一度だけ治癒光を落とした。普段の治癒師が傷の新しい順に辿るのとは逆に、光は古い傷へ、さらに古い傷へと潜っていく。レイは光の中で、肩の痛みだけでなく、幼い頃に負った膝の傷まで消えるのを感じた。
砕けていた骨兵が、傷一つない白骨へ戻る。レイの肩から毒の痕が消える。屍竜の翼に走っていた古傷も、胸を貫く槍痕も、首を落とされた断面さえ消えた。
残ったのは、死ぬ前の小さな蜥蜴だった。
レイは大剣の腹でそれをそっと地面へ押さえる。
「回復魔法で、弱くした?」
「傷を治したのではなく、傷を負った履歴を治しました。あの竜は千年分の死を強さにしていたから」
《生体ログ検証済み、種族値が屍竜から原生トカゲへ巻き戻ってる》
《敵も味方も一度で完治、再生資源そのものがゼロ》
《レイの火力を見せた上で殺さず決着。新人じゃなく規格外だ》
レイは配信カメラへ小さな蜥蜴を見せてから、凪人の肩へ腕を回した。
「次は私が前で傷を増やす。あなたが最後に全部消して」
その直後、急上昇した切り抜き動画の題名が更新された。
【歌澄レイを治した男】から【千年の不死を一回で治した男】へ。