地下倉から雨を追い出す

三日続いた雨で、酒商ギルドの地下倉は膝まで水に浸かった。樽百四十本が浮き、壁際の葡萄酒は泥の匂いを吸って売り物にならない。

「地面の神が怒っている」

古参の倉番は祈祷師を呼ぼうとした。だが、前世で土木現場を回っていたバルトンには、壁の根元から細く湧く水筋が見えていた。

「神ではなく、行き先を失った雨です」

彼は床の一辺に沿って細い溝を掘らせた。底を少しずつ排水口へ下げ、割れた瓦と拳大の砂利を入れ、その中に穴を開けた竹筒を通す。上を布と砂利で覆い、床石を戻した。見た目は元と変わらない。暗渠排水だった。

ギルド長は腕を組んだ。

「床下に屑を埋めて、金貨二十枚だと?」

「成功しなければ一枚も要りません」

試験のため、職人たちが壁際へ水桶五十杯を一気に流した。以前なら半日は水たまりが残った量だ。水は石の継ぎ目へ吸い込まれ、床下でさらさらと音を立てた。九十秒後、排水口から透明な流れが噴き出し、倉の床には靴底ほどの水も残らなかった。

さらに雨が強くなった。外の路地は川になったのに、地下倉の水位標は一目盛りも上がらない。樽を戻す作業が始まり、濡れた土の臭いも夕方には消えた。

前夜まで使っていた魔力ポンプは、一時間に魔石を三個食い、それでも雨量に追いつかなかった。停止すれば逆流し、倉番二人が夜通し桶を運ぶ。バルトンの溝には、動く部品も魔石もない。

水が引いたあと、彼は最下段の樽を開けさせた。暗渠を入れた側の新樽は木の香りを保ち、床に残していた比較用の樽だけが泥臭い。鑑定役が二つを飲み比べ、一口で比較用を吐き出した。失うはずだった上等酒四十樽が、そのまま宴会用として出荷できると分かり、商人たちの顔色が変わった。維持費は、月に砂利を一度洗うだけだった。

倉の入口では、夜通し桶を運んでいた二人が、初めて雨音を聞きながら腰を下ろした。

ギルド長は祈祷師への前金を取り戻し、バルトンの前に契約書を置いた。

「港に地下倉が二十七ある。全部同じように雨の逃げ道を作れ。工事長の席も、お前に渡す」