夕焼けに消えた補欠番号

最後の大会のメンバー発表で、私の番号は呼ばれなかった。

陸上部のマネージャーは、気まずそうに名簿を閉じた。私は笑って、「分かってた」と言った。足首を痛め、二か月まともに走っていない。分かっていたのは本当だった。

夕方、みんなが競技場へ移動したあと、私は一人でグラウンドを歩いた。四百メートルの白線は、西日に溶けかけていた。

スタート地点に立つと、背後でストップウォッチの音がした。

「勝手に計るなよ」

振り向くと、マネージャーがいた。肩には冷たいタオルを何本も入れた袋をかけている。

「荷物、忘れた」

「それ大会用だろ」

「一本くらい余る」

彼女は私の首にタオルをかけた。走ってもいないのに冷たさが背中まで落ちた。

「最後に一本だけ走る」

「先生に止められる」

「先生いない」

「私が止める役」

そう言いながら、彼女はストップウォッチを構えた。

私はスタートラインに足を置いた。痛みはまだあった。全力では走れない。大会の標準記録には遠く届かない。それでも、ここで止まったまま終わるのが嫌だった。

「位置について」

彼女の声は、いつもの大会より小さかった。

走り出すと、風が傷んだ足首を撫でた。直線で息が切れ、カーブで速度が落ちた。誰も応援していない。観客席もない。ただ、夕焼けと、時計を持つ一人だけがいた。

ゴールで倒れ込むと、彼女は秒数を見せなかった。

「遅かった?」

「うん」

「自己ベストより?」

「十二秒」

笑うしかなかった。彼女も笑った。

「でも、二か月ぶりのベスト」

その言葉で、胸の奥が少しだけほどけた。

大会当日、私は応援席にいた。冷たいタオルを選手へ渡す彼女を手伝った。リレーの直前、アンカーが緊張で手を震わせていたので、私は言った。

「今日走れる人のベストを出せばいい」

誰かから借りた言葉だった。

チームは決勝へ進めなかった。それでも夕方、全員でグラウンドへ戻ったとき、マネージャーが私にストップウォッチを渡した。

「来年は自分で計って」

「来年、走れるかな」

「今日より速ければいい」

補欠番号は夕焼けに消えた。代わりに、まだ終わっていない時間が手の中に残った。