外にいるほうが姉

 うちの地下室には、私と同じ顔の女の子が閉じ込められている。

 両親は「あれを妹だと思ってはいけない」と言った。

 十年前、川で双子の妹が溺れた。その夜、濡れた姿で帰ってきたものを地下へ入れ、二度と出さなかったのだという。

「人の記憶を読んで、家族のふりをするものよ」

 母は毎日、扉の下から食事を入れた。

 父は鍵を三つ掛けた。

 地下の子は、私の幼いころの出来事を全部知っていた。

 祖母の壺を割ったこと。妹と布団の中で決めた秘密の合図。川へ行く直前、私が妹の赤い靴を隠したこと。

「お姉ちゃん、開けて」

 声まで私と同じだった。

 十八歳の誕生日、両親が外出した隙に、私は父の机から鍵を盗んだ。

 地下室は思ったより明るかった。

 壁には、十年分の身長の線が二本ずつ引かれている。一本には私の名前、もう一本には妹の名前。どちらも毎年、同じ高さまで伸びていた。

 閉じ込められた子の右膝には、私と同じ三日月形の傷があった。

 川で転ぶ一年前についた傷だ。妹にはなかったはずだった。

「あなたは誰?」

「去年まで、外にいたほう」

 彼女は床下から古いノートを出した。

 頁ごとに筆跡が違う。

〈外にいる子は、自分を姉だと思う〉

〈中にいる子だけが、前の年を覚えている〉

〈誕生日の夜、両親がどちらかを地下へ入れる〉

〈朝になると、家族の記憶も写真も、外にいる子へ合わせて変わる〉

 一番新しい頁は、私の字だった。

〈来年ここへ来た私へ。今、外にいる私は妹です〉

 背後で地下室の扉が閉まった。

 母と父が階段の上に立っていた。

「今年は早く気づいたのね」

 母は鍵を拾った。

「どちらが本物なの」

 私が叫ぶと、父は疲れた顔で首を振った。

「最初の年から、もう分からない」

「だったら二人とも出して」

「娘が二人いると、どちらかが川で死んだことを認めなければならないでしょう」

 母は私たちを見比べた。

「朝までに、外へ出る一人を決めなさい」

 扉が施錠された。

 隣の子が、私の手を握った。

「大丈夫。外にいるほうが姉になるから」

 階段の上で、両親が椅子を一脚だけ用意する音がした。