外側からの補助錠
律花さんと小夜さんが入居したとき、私はいい姉妹だと思った。
保証人はいなかったが、家賃は半年分を先払いした。母親から逃げてきた事情も、律花さんが簡潔に説明した。妹は人前で話すと混乱するので、連絡はすべて姉を通してほしい、と。
私は深入りしなかった。大家に必要なのは、事情ではなく滞納の有無だ。郵便受けの名札が姉の名だけでも、宅配業者が妹へ荷物を渡そうとして律花さんに叱られていても、家族ごとの決め事だと思った。
ただ、二つだけ妙なことがあった。合鍵を二本渡したのに、翌週、小夜さんは「私の鍵を見ませんでしたか」と廊下で尋ねた。もう一つ、玄関に新しく付いた補助錠が、室内ではなく廊下側から操作する型だった。
律花さんは笑った。
「母が中に入り込んだとき、妹が外から閉じ込められるようにです」
説明は少しおかしかったが、私は工具店の間違いだろうと思った。翌月、小夜さんが窓越しに私へ手を振ったときも、律花さんがすぐカーテンを閉めたのは母親を警戒しているからだと納得した。
三か月後、配管の点検で訪ねると、律花さんは留守だった。呼び鈴を鳴らしても返事はない。帰ろうとしたとき、扉の向こうで何かが三回、床を叩いた。
「小夜さん?」
細い声がした。
「鍵、開けてください」
補助錠は外から掛かっていた。管理鍵で開けると、小夜さんは靴も履かずに飛び出した。通帳も身分証もスマートフォンも姉が持っている、母にはこの住所を知らせていない、ここから出る許可が下りない、と途切れ途切れに話した。
警察が来るまで、小夜さんは管理室で震えていた。私は温かい茶を出し、「お姉さんも心配だったんでしょう」と言ってしまった。小夜さんは茶に口をつけなかった。
夕方、戻ってきた律花さんは、妹は母の影響で虚言がある、と静かに説明した。あまりに落ち着いていたので、私は一瞬、そちらを信じかけた。
警察官に、鍵は何本渡したのかと聞かれた。
「二本です」
私は答えた。
一本目を受け取った直後、律花さんが駐車場の排水溝へ落としたことは、調書には書かなかった。