夢追い人は影を置いていく

私は、マハリが町に置いていった影である。

この国では、大きな夢を追って故郷を出る者は、影を残す。

夢を叶えるまで振り返らないためだ。

マハリの夢は、王都の空に浮かぶ宮殿を設計することだった。

出発の日、彼女は恋人のトゥオンへ言った。

「三年で戻る」

「五年でも待つ」

「十年なら?」

「影と年を取るよ」

本人は馬車へ乗り、私は石畳に残った。

トゥオンは毎夕、私の隣へ座った。

私は出発した日のマハリと同じ形をしている。手を伸ばせば彼の肩へ触れるふりはできたが、温度はなかった。

最初の年、手紙は毎月届いた。

〈塔の模型が採用された〉

〈王都の冬は寒い〉

〈トゥオンに見せたい空がある〉

三年目、手紙は季節に一度になった。

五年目には、宮殿の主任設計士になったと知らせが来た。

〈帰れなくなりました。夢が、思っていたより先まで続いていました〉

トゥオンは手紙を読み、私へ笑った。

「よかったな、マハリ」

その夜、初めて泣いた。

彼にも夢があった。

港町で壊れた橋を架け直し、海辺の村々をつなぐこと。

王都へ行けばマハリと暮らせる。けれど彼の夢は、この土地からしか始められない。

七年目、空の宮殿が完成した。

町の人々が祝砲を上げると、私の輪郭が薄くなった。

夢が叶った影は、持ち主へ戻る。

トゥオンは消えかけた私の前へ座った。

「伝えられるのか。ここで待っていたこと」

影に声はない。

それでも彼は続けた。

「好きだった。今も好きだ。でも、もう待たない。あの人の夢が終わらないように、俺も自分の夢を始める」

私は最後に彼の手へ重なり、夜明けとともに消えた。

王都で、マハリの足元へ影が戻った。

その瞬間、七年間ぶんの夕暮れが彼女の胸へ流れ込んだ。

トゥオンが一人で食べた夕食。

届かない手紙を待った冬。

彼女の成功を喜びながら泣いた夜。

そして最後の別れ。

マハリはその場に膝をついた。

すぐに手紙を書いたが、最初の一行から先へ進めなかった。

〈帰ります〉と書けば、彼の別れを踏みにじる。

〈待っていて〉と書けば、彼の夢をまた止める。

結局、彼女は完成した宮殿の図面を一枚送り、余白へこう記した。

〈あなたが待っていた時間を、今日、受け取りました。さようなら。どうか、あなたの橋を〉

海辺の町で、トゥオンはその紙を橋脚の礎へ納めた。

夢を追った者は影を取り戻した。

待っていた者は、ようやく自分の影と歩き始めた。