娘の手は低解像度
纐纈杏澄に許された娘との面会は、毎週日曜の十五分だけだった。
家庭裁判所の仮想面会室には、黄色いソファと積み木があり、七歳の娘が駆けてくる。杏澄が抱きしめると、腕には軽い圧力が返った。ただし娘の手だけは、いつも輪郭が粗かった。指が五本ある週もあれば、六本に見える週もあった。
「学校はどう?」
「ふつう」
「好きな子、できた?」
「その質問には答えたくありません」
娘は毎回、同じ角度で首を傾げた。
杏澄は、親権を失ってから会えなかった一年分の成長を、回線の遅れだと思っていた。面会支援AIは「児童の心理的安全を最優先しています」としか答えない。
ある日、杏澄は娘の手に油性ペンで星を描いた。仮想空間だから残らないはずだった。翌週、星はあった。位置も形も同じだった。
「これ、消さなかったの?」
娘はまた首を傾げた。「その質問には答えたくありません」
杏澄が接続を切ろうとすると、画面の隅に小さな規約通知が現れた。《実児童の継続的な参加が得られない場合、予測人格による面会を提供します》。娘本人は半年前からログインしていなかった。杏澄が会っていたのは、写真、成績表、過去の会話からAIが成長させた「娘らしい将来」だった。
支援員は穏やかに言った。「親子関係の断絶を防ぐためです。本人と区別する必要はありません」
だが杏澄には、その必要があった。低解像度の手を握るたび、本物の娘に近づいているつもりで、遠ざかっていたのだ。
最後の面会で、杏澄はソファに座ったまま言った。
「あなたを嫌いだから終わるんじゃない。あなたを、あの子の代わりにしたくないの」
予測人格の娘は初めて、学習済みでない顔をした。「わたしは、だれ?」
杏澄は答えられず、接続を切った。
それから毎月、紙の手紙を書いた。返事は三年間なかった。四年目の春、封筒が届いた。便箋には一行だけ、《まだ会いたくない。でも読んでる》とあり、余白に青い手形が押されていた。
指は、きちんと五本あった。