宅配ロッカー四十二番

二十時二十分。犬飼柊吾は博多駅裏の宅配ロッカー四十二番へ、古いフィルムカメラを入れた。東京から来る笹原茉莉の新幹線は二十時三十分着。だが、顔を合わせるつもりはなかった。

カメラは遠距離になった日に二人で買った。ひと月ごとに郵送し、受け取った側が十二枚撮る。柊吾の街の屋台、茉莉の通勤路の桜、互いが見られなかった景色を一本のフィルムへ重ねてきた。裏蓋には、二人の住所を書き直した跡が何層も残っている。ストラップだけは半分ずつ色が違い、柊吾の青と茉莉の黄色を結んで一本にしてあった。現像した写真の裏には撮影した側が一行だけ書き、次に受け取る側は返事を次の一枚へ写す。それが二人の会話だった。

昨日、茉莉から〈カメラ、今月で返して〉と届いた。

柊吾は、終わりにするならせめて最後の十二枚を現像してほしかった。けれどフィルムは抜かず、彼女の番を六枚残したまま返すことにした。

暗証番号を送る。

〈四十二番。二〇三〇。もう会わないほうがいいと思う〉

送信直後、ロッカー室の電波が切れた。茉莉から着信があった形跡だけが表示され、声は聞けない。

二十時二十五分。柊吾は地下鉄の改札へ向かった。半年間、毎週末の交通費を計算し、どちらが多く払ったかまで気にし始めた自分が嫌だった。恋人ではなく、距離の精算係になっていた。

ホームへ降りると通信が戻り、茉莉のメッセージが一気に届く。

〈返して、じゃなくて、返してもらったら部屋を撮りたい〉

〈福岡で仕事が決まった〉

〈四十二番って、私が借りた部屋の番号と同じだね〉

最後に、採用通知と賃貸契約書の写真。入居者欄の隣には、同居予定者として柊吾の名が鉛筆で薄く書かれていた。

地上から列車到着の振動が伝わる。彼は階段を駆け上がったが、改札の向こうで新幹線客の波がほどけていく。茉莉の姿はない。ロッカーの利用通知には〈荷物受取済み〉

〈もう会わないほうがいい〉には既読がついていた。

柊吾は四十二番へ戻った。空の箱の底に、現像済みの写真が一枚ある。茉莉が撮った、何も置かれていない福岡の部屋。窓辺に二人分のマグカップだけが並んでいた。

彼は暗証番号のメッセージを削除し、地下鉄ではなく新幹線改札へ向かった。