家でいちばん高いもの
骨董収集家だった初瀬川玉緒は、屋敷とともに奇妙な条件を残した。
〈この家で最も高いものを言い当てた者に、家を譲る〉
「青磁の壺よ。先月の鑑定番組で似た物が二千万だった」と長女。
「いや、書斎の油絵だ。作者の没後に相場が上がってる」と次男の透真。
「土地そのものじゃない?」と末娘。
「“家の中”と言っている」
「遺言は“この家で”よ。敷地も含むわ」
「法律論で価格をつり上げるな」
翌朝、屋敷は鑑定人だらけになった。
「この壺は百二十万円」
「ほら!」
「ただし箱が別人のものです」
「箱だけなら?」
「三千円」
「箱に負ける壺って何」
絵画鑑定士は油絵を見て首を振った。
「有名作家ではありません。裏に玉緒さんの署名があります」
「祖母ちゃん、自分で描いたのか」
「題名は〈鑑定人を呼ぶ子どもたち〉」
「死後まで観察されてる……」
宝石商はシャンデリアを、古書店主は初版本を、不動産屋は坪単価を主張した。鑑定料の請求書だけは確実に積み上がった。
「これ、遺産から払える?」
「当てた人の必要経費よ」
「外した人の鑑定まで?」
「家族の共同研究」
「欲を研究と呼ぶな」
親族は数字が出るたび陣営を変えた。
「私は最初から土地派だった」
「さっき壺を抱いて寝ると言ったでしょう」
「保存のためよ」
「寝相で保存するな」
そこへ八歳の曾孫が、窓の外を指さした。
「いちばん高いの、あれじゃない?」
屋根の上で風見鶏が回っていた。
透真は笑った。
「高さの話じゃない。値段だよ」
「遺言には値段って書いてないよ」
「子どもの屁理屈で屋敷が動くか」
「では測りましょう」と弁護士。
測量士が呼ばれ、屋根、煙突、アンテナ、風見鶏の順に高さを測った。親族は地上で首を反らしながら、まだ言い争った。
「アンテナは家財か?」
「固定資産だ」
「風見鶏は鳥類か?」
「分類学は相続に関係ない!」
測量士が降りてきた。
「最も高いのは、風見鶏のくちばしです」
弁護士は遺言書の封筒から、もう一枚取り出した。
〈言葉を値札だけで読まなかった者へ〉
曾孫が屋敷を相続した。
親族一同には、首の湿布が配られた。