屋上の赤い合図
入院中のクラスメートから、病室の窓から学校の屋上が見える、とメッセージが来た。
文化祭へ戻れるはずだったのに、治療が長引いた。クラスでは励まし動画を撮ろうという話になったが、彼女は「元気なふりをして返事するのが疲れる」と断った。
私と親友は、別の計画を立てた。
夜八時、校舎へ忍び込み、屋上のフェンスへ赤い布を結ぶ。病室から見えたら、スマートフォンのライトを三回点滅してもらう。
大人に相談すれば、安全上の理由で止められる。だから二人だけの計画だった。
非常階段の扉は昼間に細い消しゴムを挟んでおいた。暗い階段を上るたび、上履きではない靴音が響いた。
「赤って見えるかな」
「白よりまし」
布は体育祭の応援旗から切った。正確には、倉庫で捨てられる予定だった端切れをもらった。
屋上へ出ると、町の明かりが遠くまで続いていた。病院は川の向こう。どの窓が彼女の部屋か分からない。
フェンスの高い位置へ布を結ぶ。風が強く、何度も手から逃げた。親友が私の腰をつかみ、私が腕を伸ばした。
ようやく赤い布が夜へ広がった。
二人で病院の方向を見る。
何も起きない。
五分。十分。
「見えてないかも」
親友の声が弱くなった。
そのとき、遠い建物の一室で白い光が点いた。
一回。
消える。
二回。
三回。
私たちは声を上げそうになり、互いの口を塞いだ。
続いて、メッセージが届いた。
『見えた。ばか』
もう一通。
『ありがとう』
帰ろうとしたところで、屋上の扉が開いた。担任だった。
逃げる暇もなかった。
叱られると思ったが、先生は赤い布と病院を見比べ、長く息を吐いた。
「明日の朝までに外す。今夜だけだ」
先生は計画を知らなかった。けれど、理由を聞く前に分かったらしい。
翌朝、赤い布はなくなっていた。クラスメートの誰も知らない。
数か月後、彼女が復学した。教室へ入るなり、私たちの机へ小さな赤いリボンを結んだ。
「大人には言えない計画、次からは一人増やして」
彼女を入れて、秘密は三人分になった。