山腹を横切る一本線

山村ラギアでは、雨が降るたび畑そのものが麓へ流れた。

 領主代官は収穫不足を怠慢と決めつけ、残った麦まで税として持ち去る。斜面には上から下へ真っすぐな畝が刻まれ、雨水はその溝を滑り台のように走っていた。

 白峰那智は、代官から「異界の農法で税を倍にしてみろ」と嘲られ、崩れかけた斜面を一枚だけ与えられた。

 那智は畝を坂下へ向けなかった。

 斜面の同じ高さをたどり、山腹を横切るように土を盛った。一本、二本、三本。畝は雨の道を断つ低い壁になり、その内側へ麦を蒔く。

「水は下へ流すものだ。横へ止めれば畑が沼になる」

 代官の農務官が笑った。那智は隣の従来畑と自分の畑の下へ、それぞれ空の樽を置いただけだった。

 試す機会は五日後に来た。山鳴りを伴う大雨だった。

 従来畑では、縦の溝が濁流へ変わった。若い麦と黒土が一緒に滑り、下の樽は十分で泥に満ちる。那智の区画では、水が横畝の内側へ広がり、勢いを失って少しずつ土へ染みた。樽へ落ちた水は一時間たっても底が見えるほど薄い。

 雨上がり、代官は二つの畑へ杭を刺した。

 従来畑は土が指二本分削れ、麦の根が露出している。那智の畑は盛土がわずかに崩れただけで、種の列まで残っていた。流出した土を量ると、樽一つ対、匙十七杯だった。

「一度の雨では収穫は分からん」

 代官が吐き捨てる。

 那智は畑の下を指した。従来畑から流れた泥が村道を塞ぎ、税の荷車が車軸まで埋まっている。一方、横畝の下の道には小石一つ落ちていない。収穫を待たなくても、守れた土の量は目の前にあった。

 村人が無言で鍬を持ち、代官の縦畝を横から切り始める。止めようとした農務官の前へ、領主本人の騎馬隊が到着した。

 領主は泥に沈んだ税車と那智の透明な樽を見比べ、代官から徴税印を取り上げた。

「今年の税は流した土の分だけ減免する。山腹六村の畝直しは那智に任せる」

 新しい農務長の印章が、横畝の中央へ打ち込まれた。