店主四名_在席一名
店主四名、在席一名
古書店〈四頁堂〉の主人、砂古谷源八は、遺言に四人の名を残した。
〈キリ、ムギ、トウマ、チヨに、店と在庫を等しく譲る〉
私は遺言執行人として、四人へ通知を送った。
キリは帳簿に強く、源八のどんぶり勘定を毎月叱っていた。
ムギは絵が得意で、売れない本へ派手な紹介札をつけた。
トウマは無口な修理屋で、傾いた棚を直した。
チヨは子ども好きで、土曜の読み聞かせ会を始めた。
日記を読むかぎり、源八の晩年を支えた大切な友人たちだった。
遺言を開く日、応接室に用意した椅子は四脚。現れたのは、丹花戸梢という一人の女性だけだった。
「ほかの相続人は?」
「全員、来ています」
梢は四脚の中央に座った。
まず背筋を伸ばし、鞄から電卓を出した。
「在庫評価額が高すぎます。キリとして異議があります」
次に前髪を指でねじり、色鉛筆を取り出す。
「ムギは看板を黄色にしたい」
肩を落として低い声になる。
「棚、奥から腐ってる。トウマが直す」
最後に両手を膝へ揃え、穏やかに微笑んだ。
「チヨは、読み聞かせを続けたいです」
四人は別々の人間ではなかった。
梢は解離性同一性障害と診断され、一つの身体に四つの人格が暮らしていた。源八は曜日ごとに店へ現れる彼らを、一人へまとめて扱わなかった。帳簿の相談はキリへ、絵札はムギへ、修理はトウマへ、児童書はチヨへ頼んだ。
「しかし登記上、相続人は丹花戸梢さん一人です」
私が言うと、梢の中で四人がしばらく相談したらしい。目を閉じたまま、眉だけが忙しく動いた。
やがてキリの声が答えた。
「名義は一人で構いません。店の使い方は四人で決めます」
遺言の末尾には、源八らしい追記があった。
〈身体の数で友人を数えるほど、私は耄碌していない。ただし店を四等分して壁を立てるのは禁止する〉
相続手続きは一人分で済んだが、改装会議は四倍かかった。
三か月後、店は再開した。
入口の札には、こう書かれていた。
〈店主四名・在席一名。担当者が違う場合は、日を改めてください〉
その下に、源八の字を真似た小さな注意書きもあった。
〈なお、全員本物です〉