待機室から来た父親
新卒の集団面接は六人で行われた。
ところが開始五分後、「見学者」という黒いタイルが入ってきた。人事課長は「採用広報の研修生です」とだけ言い、面接を続けた。
一人の候補者だけ、難しい質問にも淀みなく答えた。見学者のタイルが小さく点滅するたび、その候補者は数秒考え、模範解答のような言葉を返す。
最後の課題は、経営危機への対応だった。
候補者が答え終えると、人事課長は満足そうに頷いた。
「今年一番ですね。ほぼ内定でよいでしょう」
私は手を挙げた。
「見学者の方は、どこの部署ですか」
課長は眉をひそめた。
「質問は面接内容に限ってください」
「では、面接の公平性についてです」
私は入室時に届いた自動通知を共有した。待機室から見学者を許可した時刻は、候補者が入る三分前。登録名の下には個人用メールアドレスが出ていた。
人事担当の一人がその姓を見て息を止めた。候補者と同じだった。
候補者は偶然だと言った。
私は会議の接続情報を続けて示した。候補者と見学者は同じグローバルIP、同じ家庭用回線。しかも見学者の端末名は「父書斎」だった。
「家族が勝手に入っただけです」
「リンクは候補者のアカウントから、昨夜二十三時十四分に転送されています」
転送履歴には短い本文も残っていた。
《質問は例年と同じらしい。合図だけ頼む》
見学者が突然ミュートを解除した。
「息子を落としたら、御社との取引を見直す」
その声に、役員面接官の背筋が伸びた。大口取引先の購買責任者だった。
人事課長は「会社のためだ」と弁明したが、会議室予約の備考には、彼自身が入力した《取引継続のため特別対応》の文字があった。
採点表の更新履歴も開かれた。見学者が反応を送るたび、人事課長はその候補者だけ一段階ずつ点を上げていた。最終回答の前には、まだ話していないのに満点が入力されている。採用責任者は、内定が面接前から決まっていたことを理解した。
採用責任者は候補者の評価票を閉じ、私たち五人の画面を見た。
「この内定案は破棄します」
そして私の応募番号を読み上げた。
「公平性を守った人から、最終選考へ進んでください」