応答者は誰だ

早瀬玄一警部補は、受理台にいた新人を取調室へ呼んだ。

責めるためではない。昨夜、情報屋の只野松吉が残した最後の通報を、誰が途中で奪ったのか確かめるためだった。

「最初から話してくれ」

新人は膝の上で手を握った。

「只野と名乗る男性が、警察官へ拳銃を売った人物を知っている、と。声が震えていました。担当へつないでほしいと言われました」

「誰に?」

「『四回目に出る人』とだけ」

通話記録では、新人は組織犯罪対策課へ転送している。一回、二回、三回。四回目の呼出音で誰かが応答し、録音はそこで止まった。転送後の音声が残らない旧式設定を知る者は少ない。

「応答者の声を聞いたか」

新人は監視窓を見た。向こうには刑事部長がいる。

「聞いていません」

「君の受話器は、転送完了まで相手側の声が漏れる構造だ」

沈黙が続いた。玄一は只野の最初の言葉を再生した。

――拳銃を買ったのは暴力団じゃない。捜査費で買った警察官だ。四回目に出る奴へ、俺が帳簿を持ってると伝えてくれ。

新人の呼吸が浅くなった。

「部長の声でした」と彼は言った。「『場所を言え。保護する』と。只野さんは港の古い給油所だと答えました。部長は私に、記録区分を相談扱いへ変えろと」

「その後は?」

「一時間後、給油所で火事が起きたと無線で入りました。消防への第一報は、只野さんの通話が切れてから三十七分後です」

玄一は机の下で拳を握った。只野の安否はまだ公表されていない。刑事部長は、違法拳銃の摘発実績で本部長表彰を受ける予定だった。

監視窓の内線が鳴る。新人が肩を跳ねさせた。

『若い職員の記憶違いだ。取調べを終えろ』

玄一は受話器を戻した。新人を守るには、供述をなかったことにするのが最も簡単だった。だがそれは、四回目に出た者を永遠に受話器の向こうへ隠すことになる。

彼は転送ログ、相談区分への変更履歴、新人の供述録音を保全票へ登録した。最後に監視窓へ向けて録音中の赤灯を確認し、刑事部長の名を被疑関係者欄へ入力した。