所有者と装備者
盗王ヴェネスの短剣が藤袴サクトの胸を裂いた。
《債返しの指輪》
装備者が受けたダメージを、現在の所有者へ移します。
所有権と装備状態は別に判定されます。
指輪を装備しているサクトのHPは減らない。代わりに、盗王の頭上へ同じダメージが出た。
「なぜ俺が!」
戦闘開始直前、ヴェネスは《強奪宣言》でサクトの全所持品の所有権を奪った。装備品は身体に残るため、指輪だけはサクトが着けたままだ。
所有者はヴェネス。装備者はサクト。
盗王は自分が奪った指輪の説明を、価格欄までしか読まなかった。
「外せ!」
サクトが指輪を抜こうとしても、所有者ではないため装備解除の承認ができない。
ヴェネスは攻撃を止める。こちらから斬れば通常どおりサクトの攻撃になるため、盗王へダメージを与えられる。だがサクトは剣を拾わない。
「攻撃してこいよ。反撃なら正当だろ」
ヴェネスは動かない。自分が斬れば自分が傷つく。相手が斬れば殺せる。二人は一歩も動かず睨み合った。
その間に、盗王の部下たちがざわつき始める。強奪された装備の所有権はすべてヴェネスへ集まっている。彼が死ねば、品は元の持ち主へ返る。
部下の一人が、サクトへ小石を投げた。
一ダメージが指輪を通り、ヴェネスへ移る。
「やめろ!」
次々に小石が飛ぶ。部下たちは主を裏切ったのではない。自分の装備を取り返す最も安全な方法を選んだだけだ。
ヴェネスのHPがゼロになり、所有権一覧が解放される。サクトの指輪も、ようやく本人の物へ戻った。
《盗王ヴェネスの所有権を解除》
《債返しの指輪:装備者サクト/所有者ヴェネス》
ヴェネスの部下だった者たちは、戻った装備をすぐ身につけなかった。自分が奪われる側になって初めて、所有権表示が本人の意思と同じではないと知ったからだ。
サクトも指輪を外し、地面へ置く。便利な反射装備でも、誰かを所有者へ設定しなければ成立しない。
彼は勝利品として持ち帰らず、盗品管理局へ預けた。指輪が返したのはダメージだけでなく、「持っている者が使う者より上だ」という盗王の論理だった。
《勝者を確定――攻撃を返した指輪ではなく、所有と使用を同じ意味だと思い込んで全財産を抱えた盗王が自分の債務を受け取りました》