投票先は新郎です
披露宴の余興として、人狼ゲームが始まった。
司会者が説明する。
「この会場には一人だけ、結婚を妨害する人狼がいます。最も怪しい人物へ投票してください。最多得票者には退場していただきます」
新婦側の叔母が、新郎を指した。
「最初から怪しい」
新郎の友人が驚く。
「主役ですよ」
「結婚を妨害できる最大の人物は、結婚をやめられる本人でしょう」
「論理が強すぎる」
新郎は笑って否定した。
「僕は村人です」
叔母が目を細める。
「人狼もそう言う」
「新郎だから退場できません」
「特権を主張した。権力型の狼ね」
各卓で推理が過熱した。
新郎が乾杯前に水を飲んだこと、指輪交換で右手を出しかけたこと、ケーキ入刀のナイフを迷わず握ったことまで疑われた。
「刃物に慣れている」
「ケーキ用です」
「白い衣装は潔白の演出」
「タキシードは黒です」
「内面の黒さを外へ出している」
「どちらでも有罪になる!」
新婦も面白がって加わった。
「今朝、私より先に式場へ来てた」
叔母が机を叩く。
「現場の下見よ」
新郎が訴える。
「着付けの時間が違うから!」
「昨夜は眠れなかったと言っていた」
「緊張です」
「夜行性の証拠」
「人狼は医学的な生物なんですか」
司会者が投票箱を回す。
新郎の友人は小声で相談した。
「新郎を守るため、別の人へ票を集めよう」
「誰に?」
「司会者。ルールを知りすぎている」
「ゲームマスターを追放したら進行不能だ」
「それが勝利条件かもしれない」
「結婚式をデスゲームにしないで」
開票すると、新郎が圧倒的多数だった。
司会者が声を張る。
「人狼に選ばれた新郎には、ただちに退場していただきます!」
会場がどよめく。スタッフが新郎を連れ出した。
叔母が青ざめた。
「本当に退場?」
新婦は拍手している。
三分後、扉が開いた。
新郎は巨大な狼の着ぐるみで戻り、子どもたちへ菓子を配り始めた。
司会者が説明する。
「最多得票者が人狼役へ着替える余興です」
叔母は狼の手から菓子を受け取った。
結婚を妨害した者はいなかったが、新郎の顔は十分間消えた。