掃除機は二度帰る

寄宿学校の消灯十分前、試験問題保管室の鍵が談話室から消えた。寮監の深見沢は鍵を低い卓に置き、三人の上級生へ翌朝の立会いを頼んでいた。突然、廊下で非常ベルが鳴り、四人は扉の前まで移動した。誤報と分かって卓へ戻ると、鍵がない。談話室から出た者はいなかった。

容疑者は生徒会長の奥貫、陸上部の蘭越、機械部の波佐間。三人とも追試を控え、問題を先に見る動機があった。制服、靴、鞄、ソファの隙間まで調べたが鍵は見つからない。部屋では円盤型の自動掃除機が動き、やがて壁際の充電庫へ戻っていた。

非常ベルは配線不良による偶然で、三人が仕組んだものではないとすぐ判明した。奥貫は蘭越の袖を疑い、蘭越は寮監が鍵を片づけ忘れたのだと言い返した。波佐間だけは掃除機を邪魔そうに足で避け、「こんな玩具まで調べるのか」と笑った。だが密室で動いた物は、人間だけではない。

手掛かりは三つだった。第一に、掃除機の走行地図には、ベルが鳴った時刻だけ卓の脚へ寄る十四センチの不自然な迂回があった。第二に、回転ブラシへ鍵輪の赤い木綿糸が巻き付き、吸入口の奥で硬い物が一度跳ねる音が記録されていた。第三に、掃除機へ手動進行を命じた端末は波佐間の機械部用タブレットだった。

波佐間は「掃除機が勝手に吸っただけなら、僕が盗んだことにはならない」と肩をすくめた。だが通常経路では、機械は卓から四十センチ離れて通る。手動操作がなければ鍵へ届かない。

私は充電庫の蓋を開き、集塵箱ではなく前輪の覆いを外した。鍵は車輪軸に引っ掛かっていた。「波佐間君はベルの混乱に合わせ、掃除機を卓へ寄せて鍵を吸わせ、そのまま充電庫へ戻した。赤い糸が吸い込みを、走行地図が意図的な接近を、操作端末が操作者を示す。誰も談話室を出ていないのは当然だ。鍵を運んだのは人間ではなく、二度目だけ道を変えた掃除機だった」ベルが偶然だったからこそ、波佐間君はその場で機械を利用したのでしょう。掃除機は一度目には通常経路を走り、二度目だけ鍵へ寄った。題名どおり、その差を読めば犯人の指は端末の中に見えています。