日蝕は二つの祈りを聞く
暁鐘院は太陽を神と呼び、宵鏡院は月だけを崇めた。
互いを世界を曇らせる異端として、百年も争っていた。
暁鐘院の司書ティレアと、宵鏡院の写本師モルヴェンは、国境の廃礼拝堂で出会った。
二人の院に一枚ずつ伝わる古文書は、重ねて初めて読める。
そこには、次の日蝕に両方の祈りが唱えられなければ、昼も夜も戻らないと記されていた。
二人は一年間、月に一度だけ礼拝堂へ通い、言葉を解読した。
ティレアは太陽の賛歌を教え、モルヴェンは月の文字を教えた。
相手の祈りを口にすることは、どちらの院でも追放に値した。
「あなたの神を信じたわけではない」
ティレアが言う。
「僕も。君の発音が下手で放っておけなかっただけだ」
「月の人は皆、そんなに意地悪なの?」
「太陽の人は皆、そんなに眩しいのか」
笑い合ううち、二人は祈りより先に互いを覚えた。
日蝕の前夜、二つの院は秘密の会合を知った。
長たちは古文書を焼き、二人へ選択を迫った。
相手を異端として告発するか、自分の院を去るか。
「一緒に逃げよう」
モルヴェンが言った。
ティレアは首を振った。
暁鐘院には、戦災で家を失った子どもたちがいる。
宵鏡院にも、夜しか働けない病人たちが守られている。
二人が去れば、古文書の真実まで恋人同士の作り話にされる。
日蝕の日、ティレアは東の塔へ、モルヴェンは西の塔へ立った。
両院の兵が谷を挟んで向かい合う。
太陽が欠け、昼が冷えた。
ティレアは禁じられた月の一句を唱えた。
同じ瞬間、遠い塔からモルヴェンの太陽の一句が聞こえた。
二つの祈りが重なると、黒い太陽の縁に光が戻った。
人々は奇跡に歓声を上げた。
だが両院は、それぞれ自分たちの祈りだけが世界を救ったと布告した。
ティレアとモルヴェンは、その日を最後に会わなかった。
会えば、どちらかの院が奇跡の嘘を認めなければならないからだ。
それから毎朝、暁鐘院の祈りには月の音が一つ混じった。
毎夜、宵鏡院の祈りには太陽の言葉が一つ残った。
二人の名は敵として記録された。
けれど世界は、別々の塔から交わした二人の別れを、昼と夜の両方で覚え続けた。