星ひとつの終着

地図サービスの委託会社で、千種硯は「存在確認」の仕事をしていた。利用者が勝手に追加した店や道路を現地で確かめ、虚偽なら削除申請を出す。

その日届いた案件は、山沿いの「戻路駅」だった。鉄道会社に照会すると該当なし。衛星写真にも線路はない。それなのに、地図上では毎晩一時から四時だけ駅の記号が現れる。

古い掲示板には一件だけ書き込みが残っていた。

《戻路駅を見つけても、口コミに星を付けてはいけない。あそこは評価された場所を出口にする》

硯は迷信より納期を信じた。

午前一時、地図の案内どおりに歩くと、住宅地の突き当たりに地下階段があった。降りた先には錆びた改札と、どちらへ延びているか分からない線路がある。駅名標は確かに「戻路」。出口案内は白紙だった。壁の路線図には、駅ではなく住宅の間取りが連なり、その終端に硯の部屋番号が小さく印刷されていた。

写真を撮り、位置情報を確認し、業務アプリから「実在」を選ぶ。口コミ欄への入力が必須だった。

硯は、警告を思い出しながらも星を一つ付けた。

《出口がなく危険。閉鎖を推奨》

投稿直後、評価は「1.0 口コミ1件」になった。さらに、店主用アカウントのようなものから返信がついた。

《ご不便をおかけしました。出口を一か所追加しました》

背後で改札が開いた。そこを抜けると、自宅マンションの一階廊下だった。階段も駅も消えていた。

翌朝、硯は投稿を削除しようとした。しかし戻路駅の所在地は、自宅住所に変更されていた。建物の写真もマンションの外観になり、営業時間は「始発から終電まで」と表示されている。

出勤しようと玄関を開けると、見知らぬ男女がスーツケースを持って廊下に並んでいた。誰も硯を見ず、壁に向かって交通系カードをかざしている。

スマホが震えた。

《戻路駅は通常より混雑しています》

続いて、フードデリバリーの配達員から電話が来た。

「千種さんのお部屋って、何番線側ですか。改札を出ても同じ廊下に戻されるんです」

通話の向こうで、到着を知らせるチャイムが鳴った。

地図アプリには、硯の寝室を示す場所に、新しい表示が追加されていた。

《戻路駅 出口1》