昼寝前の完全犯罪
事件は午前十一時四十二分、施錠された部屋で起きた。
冷蔵庫から、特製プリンが消えたのだ。硝子の器、山盛りの生クリーム、頂上には赤いさくらんぼ。被害総額は三百八十円だが、犯罪に金額の大小はない。
容疑者は三人。
赤帽子は「見てないもん」と黙秘。縞靴下は泣いて捜査を妨害。三つ編みは腕を組み、「犯人はこの中にいる」と私の台詞を先に言った。
現場を調べた。冷蔵庫の取っ手には小さな指紋が五つ。床には椅子を引きずった跡。流しには、洗われたばかりのスプーンが一本。
「完璧に証拠を消したつもりだろうが、甘い」
「プリンだけに?」
三つ編みが言った。
「口を挟まない」
私は一人ずつ事情を聴いた。
赤帽子は事件時、砂場で山を築いていた。縞靴下は靴を左右逆に履き、直されていた。三つ編みは紙に何か描いていたという。
「何を描いていた?」
「犯人の顔」
差し出された画用紙には、眼鏡をかけた長身の人物が、冷蔵庫の前でプリンを食べている。胸には私と同じ星形の名札まであった。
「想像には証拠能力がない」
「お口に、茶色いのついてるよ」
赤帽子が指差した。
私はハンカチで唇を拭った。カラメルだった。
その瞬間、扉が開いた。
「何をしているんですか。もうお昼寝の時間ですよ」
園長が、私と三人を見比べた。
「先生、まさか私のプリンを食べました?」
ここまで読んだ諸君は、私を刑事だと思っていたかもしれない。
違う。
私は〈こぐま組〉を受け持つ保育士である。窓のない取調室は教材倉庫、容疑者三人は五歳児。そしてプリンを食べたのは、ほかならぬ私だった。
蓋に〈園長先生へ〉と書いてあったが、最後の二文字だけを自分宛てだと解釈した。法的には誤読、道義的には窃盗である。
三つ編みが腕を組む。
「先生、謝ったら許してあげる」
私は三人の前で頭を下げた。
判決は、午後のおやつ一週間没収。
完全犯罪に失敗した私が昼寝用の布団を敷く横で、名探偵たちは五分もしないうちに眠った。