最後に降ろす給食
午前十時、初瀬川透子の冷蔵車には三校分の給食が積まれていた。最後の小学校へ届けるのは、食物アレルギー対応のパン十二個。専用の青い箱だけは、ほかの荷物に触れさせない決まりだった。
一校目の裏門で、透子がパワーゲートを下げると、平台車がわずかに右へ傾いた。助手はブレーキを外しかけた。
「時間がないです」
「だから外さない」
透子は車内へ戻り、床に手を当てた。牛乳ケースから漏れた水ではない。ゲート右側の油圧部から、透明な油が細く伸びている。荷重をかければ傾きが増し、平台車ごと落ちる。
学校は配膳開始まで二十分。修理を待てない。透子は荷降ろしの手順を変えた。ゲートを使わず、厨房の低い搬入口へ車を横づけし、一箱ずつ手渡す。冷蔵帯の扉を開ける時間を短くするため、必要な箱だけを先に入口へ寄せた。重い牛乳を下、食缶を上に置き直し、荷崩れしない高さに分ける。
助手が青い箱まで持ち出そうとしたとき、透子は止めた。
「それは三校目。ここで外気に出したら、積み直すときに一般食と混ざる」
急ぐほど、目立つ箱から動かしたくなる。だが特別な荷物は、最初に守り方を決め、最後まで変えない。
教頭と調理員も加わり、十九分で荷降ろしは終わった。油の筋は太くなっていた。あのまま平台車を載せていれば、途中で片側が沈んでいた。
透子は営業所へ故障を報告し、残り二校には到着が遅れると伝えた。青い箱の封を確認すると、助手が言った。
「先に届けたほうが安心かと思いました」
「最後に降ろすから、途中で誰も触れない」
教頭が高学年の児童を呼ぼうとしたが、透子は断った。軽いパン箱でも、油の付いた床へ子どもを入れれば転倒する。大人の人数が足りない分は、箱を小分けにして往復を増やした。遅れを減らすために危険な人手を足すのは、手順の短縮ではなかった。
次の学校のチャイムが遠くで鳴った。透子は故障したゲートを固定し、今度は低い搬入口のある道だけを選んで、冷蔵車を走らせた。