最後のポップコーン
映画上映を終えた教室には、甘い油の匂いだけが残っていた。机をスクリーン側へ向けたまま、床には潰れた紙コップと、靴底に踏まれたポップコーンが散っている。
小雪がほうきを動かしていると、窓際で侑那が一本の紙カップを見つけた。売れ残りのキャラメル味。湿気を吸って、もう弾けるような軽さはなかった。
二人は文化祭の一週間前から、まともに話していない。小雪が脚本を書き、侑那が主演した十五分の映画。その最後の場面を、侑那は相談なく短くした。主人公が泣く台詞を切り、扉を閉める音だけで終わらせたのだ。
観客は静かになり、上映後には拍手が起きた。最後の扉の音が消えるまで、誰も立たなかった。成功だった。それが余計に悔しかった。
侑那はカップを机の中央へ置き、焦げた粒だけを選んで口に入れた。昔から、小雪は苦い粒が嫌いで、侑那はキャラメルの濃い粒が苦手だった。中学の帰り道、映画館でいつもそうして分けた。二人で初めて撮った短編も、帰りのバスを逃して駅前で食べた一杯から始まった。最近は、仲がよかった記憶まで相手に負けた証拠のように感じ、思い出すのを避けていた。
小雪も向かいに座った。甘い粒を一つつまむ。言い訳を聞きたいのか、謝らせたいのか、自分でも分からなかった。
「泣く顔、撮られたくなかった」
侑那が、焦げた粒を見たまま言った。台詞の場面を撮った日、彼女の両親が離婚を決めたことを、小雪はそのとき初めて知った。
謝罪も説明も、それだけだった。
小雪はカップの底に残った最後の一粒を指で転がした。キャラメルが半分だけ焦げた、どちらの好みとも言えない粒だった。少し迷い、それを侑那の前へ押した。
侑那は半分かじり、残りを戻した。小雪も食べた。湿っていて、甘くて、わずかに苦かった。
二人は立ち上がり、無言で机を運んだ。帰る直前、小雪は映画祭の応募フォームを開いた。監督欄に自分の名を、編集欄に侑那の名を入れる。
送信ボタンを押すと、教室のスクリーンが白く揺れた。終わり方を変えた映画は、二人の次の場所へ進み始めた。