最後の四枚

十九時五十分。閉店間際の写真店で、越智温己と皆月依澄は古い撮影ボックスの画面を見つめていた。サービス終了まで十分。保存データは二十時にすべて消える。

二人は社会人になってからも、誕生日のたびに四枚一組の写真を撮った。最初は変顔、次は真顔、三枚目はその年の流行、最後だけ普通に笑う。細長いプリントは八年分あり、温己の机の引き出しと依澄の菓子缶に半分ずつ入っている。並べれば、髪型や服より先に、互いへ寄る肩の距離が少しずつ近づいていた。

「今年の分、撮らない?」と依澄が訊いた。

「来月、婚約写真を撮るんだろ。そっちで十分じゃないか」

「まだ婚約してない。会ってみるだけ」

「同じようなもんだよ」

依澄の母が勧めた相手だった。温己は友人らしく背中を押すと決めていた。自分が何年も動かなかったぶんまで、彼女の時間を止めたくなかった。

店員がデータ移行の進捗を告げた。九十九パーセントで止まっている。依澄は去年のプリントを一枚、温己へ返した。四枚目だけ白く飛び、輪郭が見えない。

「あの日、本当は五枚撮れてたの」

「四枚の機械だろ」

「そう思うなら、いい」

十九時五十七分。依澄は「見合いに遅れる」と店を出た。温己は呼び止めず、白い一枚を財布へ入れた。

二十時直前、移行が完了した。故障時の確認用として、印刷されない予備フレームが一枚だけ保存されていた。画面には、普通に笑うはずの四枚目の直後が映る。温己は出口へ顔を向け、依澄はその横顔へ唇を寄せかけていた。画像の下には、依澄が入力した手書き風の文字が残っていた。

〈九年目は、隣じゃなくて正面から好きと言う〉

撮影日は一年前。白飛びした写真を見て温己が「失敗でよかった」と笑ったため、依澄は予備フレームを見せなかったのだと分かった。

店外のシャッターが下り、電話は留守番サービスへ切り替わった。画面に〈保存しますか〉と表示される。温己は指を置いたまま十秒待ち、〈削除〉を押した。最後の一枚が暗くなってから、白く飛んだプリントだけを財布に残した。