月曜の青いウィッグ
江藤真帆が注文した青いウィッグは、自宅ではなく会社に届いた。
住所の入力履歴を間違えたのだと気づいたときには、受付から内線が来ていた。
「箱が少し破損しています。確認をお願いします」
一階へ下りると、昼休み前のロビーに社員が何人もいた。受付台の脇では段ボールの口が開き、鮮やかな青い毛束が滝のようにこぼれている。色を半年探し、海外の店から取り寄せた特注品だった。失くす怖さより、ここで持ち主だと名乗る怖さのほうが勝った。
普段の真帆は、前髪を一つに留め、紺のブラウスしか着ない。週末に海賊漫画の航海士へ変わることを知る者はいなかった。
「あれ、江藤さんの?」
営業の男性が足を止めた。
真帆が足を止めたままでいると、受付主任の岩瀬が、青い毛束を素早く箱へ戻した。
「撮影備品です。宛先の部署を確認中ですので、通路を空けてください」
有無を言わせない声だった。男性は肩をすくめて去った。
応接室へ通されると、真帆は何度も頭を下げた。
「すみません、私物です。変なものではなくて、趣味の……」
「私物なら、なおさら説明しなくて結構です。受け取りに必要なのは本人確認だけです」
岩瀬は箱からウィッグを出し、絡んだ毛先を指で分けた。
「ただ、このまま押し込むと癖がつきます」
慣れた手つきだった。
聞けば岩瀬は、地域劇団の衣装係を二十年続けているらしい。青い髪にも、角にも、血のりにも驚かないという。
「受付にいると、皆さんは私を会社の家具みたいに思うでしょう」
岩瀬はウィッグを薄紙で包んだ。
「でも、家具にも勤務後があります」
真帆は笑ってしまった。
箱を抱えて戻る途中、エレベーターの鏡に、いつもの地味な自分と、隙間からのぞく青が映った。
デスクへ着くと、同僚が「結局、何だったの」と尋ねた。
真帆は紙袋で箱を隠そうとして、手を止めた。
「週末に使う、私の衣装です」
それ以上は説明しなかった。
退社時、真帆は破れた段ボールだけを畳んだ。青い毛束の見えるケースは、そのまま腕に掛けてロビーを歩いた。