木曜便の受領印

木曜日が消える町では、木曜指定の荷物だけ金曜の朝に届く。配達員は受取人の名前を三回呼び、返事がなくても玄関内へ置く。受取人は正午まで開封してはいけない。差出人が死んでいても、規則は変わらない。

土岐津和玖は、その便を担当して六年目だった。

金曜の朝、荷台に灰色の箱が一つあった。宛先は和玖の部屋。差出人は兄の遼市。兄は半年前、冬山で死んだ。遺体は見つからず、死亡届だけが役所から戻ってきた。

同僚は伝票を見て肩をすくめた。

「木曜便なら普通だろ。自分で配達するしかないな」

自宅前で、和玖は自分の名を三度呼んだ。一度目は配達員として、二度目は弟として、三度目は自分がまだここに住んでいることを確かめるように。返事はしなかった。規則どおり、合鍵で扉を開け、箱を内側へ押し込んだ。

正午までの四時間、彼は通常便を配った。紙おむつ、工具、誕生日の花。どの家でも、受領印は今日の日付だった。木曜日のことを尋ねる客はいない。

十一時五十八分、最後の荷物を終え、和玖は部屋へ戻った。箱は玄関から廊下の中央へ移動していた。木曜便は、待たせると家の中を少しずつ進む。正午を越えると最も開けてほしい場所で止まる。

箱は兄の部屋の前にあった。

時計が十二時を打つ。カッターを入れると、湿った冷気が出た。中には登山靴が片方、フィルムカメラ、赤い子供用の手袋。どれも兄の持ち物ではない。底に配達票があり、次の木曜便の宛先が印刷されていた。

山麓の無人休憩所。受取人は和玖。配達期限は先週の木曜日。

「遅配じゃないか」

和玖は笑った。会社へ電話すると、担当者は淡々と言った。

「木曜便に遅配はありません。配達員が到着するまで、木曜日のほうが待ちます」

和玖は休暇申請を出した。兄を探すためではない。あの箱に入っていた手袋の持ち主へ、荷物を返すためだ。そう説明すると、上司は一日だけ許可した。もちろん木曜日だった。

翌週の水曜、和玖は山へ入った。夜、休憩所の扉を開けると、机の上に受領印が置かれていた。

朱肉にはまだ誰かの親指の跡があり、その横で赤い手袋の片方が雪解け水を滴らせていた。