木曜日の父の日

 幼稚園で「父の日は日曜日です」と教わった日、私は先生に言った。

「うちは木曜日です」

 父は夜間の道路工事をしていて、土日も祝日も関係なく働いた。夕方に出て、私が眠っている間に帰り、昼過ぎまで寝る。ゆっくり会えるのは、週に一度の木曜日だけだった。

 だから木曜日になると、私は紙のネクタイを作った。

 一枚目は赤いクレヨンで塗りすぎて、父の作業着まで赤くなった。二枚目にはうさぎを描いたが、父は「犬が上手だな」と言った。三枚目には大きく〈おとうさん〉と書くつもりで、〈おとさん〉になった。

 父は全部、首から下げた。

「今日は仕事ないのに、ネクタイするの?」

「父の日だからな」

 木曜日の昼、二人でホットケーキを焼いた。父はひっくり返すのが下手で、天井近くまで飛ばした。私は笑い、父は「道路は平らにできるんだけどな」と言った。

 本当の父の日の日曜日、幼稚園で参観があった。

 ほかの父親たちが椅子に座る中、私の席だけ空いていた。先生は気を遣い、「お仕事なのね」と言った。

「今日は父の日じゃないから」

 強がったけれど、帰り道では紙のネクタイを丸めた。

 家に着くと、玄関に泥のついた安全靴があった。父が起きて待っていた。

「参観、行けなくてごめんな」

「日曜日だからいい」

「でも、お前の父の日だったんだろ」

 父は押し入れから細長い箱を出した。中には、これまでの紙のネクタイが一本ずつ並んでいた。しわだらけの赤、犬に見えるうさぎ、字の足りない三枚目。その横に、工事現場の仲間と写った写真がある。父は作業着の上から、私のネクタイを結んでいた。

「毎週もらったら、父の日が多すぎない?」

「父親でいる日は毎日だから、まだ足りない」

 私は丸めた新しいネクタイを伸ばした。折り目は消えなかったが、父は一番前に置いた。

 大人になった今、木曜日になると、私は父へ電話をする。

 父はもう夜の工事を辞め、曜日に関係なく眠れる。それでも電話に出ると必ず言う。

「父の日、おめでとう」

「祝われるのは父のほうでしょ」

「うちは木曜日だから、細かいことはいいんだ」

 幼い私が決めた暦を、父はいまだに使っている。