未読二百三十七

二十三時十八分、スマートフォンの画面には未読二百三十七件と表示されていた。

大学時代の友人グループが百六十二件。会社の同期が四十一件。実家の家族が二十九件。残りは通販の通知と、登録した覚えの薄い店のクーポンだった。

友人たちは、来月の旅行先を決めているらしい。温泉、海、貸別荘。画面を少し上に滑らせるだけで、知らないうちに決まった候補が次々現れる。誰かが「全員いける日ある?」と聞き、私の名前の代わりにメンションの青い文字が光っていた。

返事をしなければ。予定表を見なければ。楽しい話なのだから、楽しく参加しなければ。

私はコンビニで買った杏仁豆腐の蓋を開けた。スプーンを口に運んでも、甘さより冷たさが先に分かった。暖房を切った部屋は静かで、上の階から椅子を引く音がした。

同期のグループでは、異動の噂が流れていた。実家では、父が送った庭の梅の写真に、母と姉がそれぞれ違うスタンプを返している。どれも大事で、どれも今夜の私には重かった。

一人暮らしをしていると、誰にも会わない夜ほど、画面の中では多くの人に囲まれる。読めば参加できる。返せばつながれる。だから未読を増やしているのは、自分から孤独を選んでいるみたいで、数字を見るたび後ろめたかった。

一番下に、三日前から未読のままの個人チャットがあった。

『今週しんどそうだったけど、生きてる?』

冗談の軽さに救われる日もある。今日は、その軽さに返す言葉さえ見つからなかった。

私は入力欄に「返事する元気ないけど、生きてる」と打った。句読点をつけると深刻に見え、消した。代わりに、布団にくるまった猫のスタンプを一つ送る。

すぐに既読がついた。返事は来なかった。来ないことが、ありがたかった。

旅行のグループは通知を一週間停止した。同期の噂も、家族の梅も、数字の中に残した。二百三十七は二百三十六になっただけだった。

明日の朝になれば、夜のあいだの会話がまた積み上がっているだろう。旅行の日程も異動の噂も、私が止まっている間に進んでいく。それを追いつけないことではなく、追いつかない夜があることとして見てみた。

それで十分だった。私は画面を伏せ、杏仁豆腐の残りを、今度は少し甘いと思いながら食べた。