未読十三件の祝福

水曜の午後八時五十六分、紬はスーパーのコロッケを箸で半分に割った。

衣は冷えて固く、紙の容器の底に油の丸い跡ができている。味噌汁を作るつもりで買った豆腐は、冷蔵庫に入れたままだった。

高校の同級生四人のグループに、未読が十三件ついていた。紅葉の名前の横に、小さな写真が見える。

〈報告です。昨日、結婚しました〉

白い花束、役所の前、二人分の影。次の十二件は、ほとんど同じ速さで届いた祝福だった。

紬は画面を閉じた。驚いたわけではない。紅葉には長く付き合っている人がいたし、去年会ったときには新居のカーテンの話も聞いた。それでも、知っていたことと、今日それが文章になることは違った。

テレビでは、誰かが豪華な台所で十五分料理をしていた。紬のテーブルには冷めたコロッケと、開封して三日目の麦茶。自分の生活だけ、報告するほどの形がないように見えた。

もう一度グループを開く。〈びっくり!〉〈写真きれい〉〈今度お祝いしよう〉。紬も何か足さなければと思った。遅れた分だけ、気の利いたことを言わなければならない気がした。

けれど、考えるほど指が止まる。

高校時代、紅葉とは放課後によく駅前のラーメン屋へ行った。二人ともお金がなくて、一杯を食べ終えるまで水を何度もおかわりした。紅葉は悩みを話す前、必ず煮卵を最後まで残した。

紬は入力欄に書いた。

〈おめでとう。落ち着いたら、また煮卵を最後まで残すところ見せて〉

送った直後、少しだけ幼い文面に思えた。祝辞らしくない。だが取り消す前に、紅葉から返事が来た。

〈覚えてたの? 今も最後に食べるよ〉

続けて、笑っている顔の記号が一つ届いた。

紬は味噌汁を作るのをやめ、豆腐を冷蔵庫から出した。パックの水を切り、塩とごま油だけかける。コロッケは温め直さず、そのまま食べた。

グループにはさらに未読が増えていたが、今夜は全部を追わないことにした。祝福は十三件の流れに追いつく競争ではない。紅葉に一つ届けば、それでいい。

スマートフォンを伏せると、静かな部屋に箸の音が戻った。紬は冷たい豆腐を一口食べ、自分の平凡な夕飯にも、ちゃんと席を譲った。