本物なら答えられる
山で人が消え、何日もたって帰ってきたとき、村では三つ質問をする。
家族しか知らないことをすべて答えられれば本人。一つでも間違えれば、山が姿を借りて下りてきたものだという。
弟が土砂崩れに巻き込まれたのは、母の三回忌の翌日だった。
捜索は十日で打ち切られた。
七か月後の雪の夜、弟が玄関を叩いた。
裸足で痩せていたが、顔も声も、右手の火傷も弟そのものだった。
父は家へ入れず、土間で質問を始めた。
「兄が初めて釣った魚は?」
「赤い小さな鮒。兄ちゃんは海の魚だと嘘をついた」
正しかった。
「母さんが最後に着ていた服は?」
「白い寝巻き。袖に味噌汁の染みがあった」
それも正しかった。
最後に父が尋ねた。
「母さんの墓は、どの木の下だ」
村の共同墓地には、大きな杉が一本ある。母の墓はその根元だと、誰もが知っていた。
弟は父を見て、首を振った。
「母さんは墓にいない」
父の顔が固くなった。
「台所の床下だ。父さんが鍬で殴って、夜中に埋めた。僕は戸棚の中から見ていた」
父は叫んだ。
「違う。こいつは弟じゃない!」
村の決まりでは、家族が始末しなければならない。
私は弟の首へ縄を掛けた。
「兄ちゃん、思い出して。母さんが消えた夜、床を張り替えただろう」
弟は最後までそう訴えた。
私は父を信じた。母は病で亡くなり、墓へ入った。村中が葬儀を見ている。
翌朝、弟の遺体を山の焼き場で灰にした。
父は火が消えるまで、一度も私を見なかった。
それから二年後、古くなった家を取り壊した。
台所の床板を剥がすと、土の中から女性の骨が出た。頭蓋骨には鍬の刃と一致する傷があり、袖に茶色い染みの残る白い寝巻きを着ていた。
共同墓地の棺に入っていたのは、母の名を書いた石だけだった。
父は警察が来る前に姿を消した。
机の引き出しには、三つの質問を書いた紙が残されていた。
最後の問いの横にだけ、父の字で注意書きがある。
〈あの子が本物なら、床下のことを話す〉
〈兄に殺させること〉
私は、弟が一つも間違えていなかったと知った。
山から帰ってきたものを殺したのではない。
山からようやく帰ってきた弟を、父の言葉だけで殺したのだ。