机を半分ずつ
生天目佳澄が青いノートを見つけたのは、机の奥だった。
表紙には何もなく、最初の頁に一行だけあった。
――昼の人へ。この机、右側をもう少し空けてください。
佳澄は定時制の一年だった。夕方に教室へ来ると、机の中には昼間の生徒が忘れた消しゴムのかすや、折れたシャープペンの芯が残っている。自分の教科書を入れる場所がない日もあった。
少しむっとして、返事を書いた。
――夜の人より。左側に菓子の袋を押し込んだのは、そちらです。
翌日。
――ごめんなさい。右が昼、左が夜にしませんか。
それから机は、きれいに半分ずつ使われた。
ノートには、忘れ物の連絡が増えた。
――英語の辞書、借りました。
――数学のプリント、落ちていました。
――窓際は五時間目に暑いです。
――夜はストーブの近くが勝ちです。
名前は書かなかった。昼の人、夜の人。それで困らなかった。
文化祭の日、定時制の展示は夕方からだった。佳澄は早めに来て、青いノートへ書いた。
――今日は机を全部使っていいです。昼の人の展示、見たかった。
返事はないと思っていた。
教室で準備をしていると、廊下から制服姿の女子が覗いた。昼の生徒はもう帰った時間だった。彼女は机を一つずつ確かめ、佳澄の前で止まった。
「夜の人?」
佳澄は、しばらく返事ができなかった。字しか知らない相手に顔がついている。想像より背が低く、右手に青いインクがついていた。
「昼の人?」
二人は同じ机を挟んで座った。
昼の人は、昼間の展示で余った紙の花を机の右側へ置いた。佳澄は夜の喫茶で出す個包装のクッキーを左側へ置いた。
「もっと散らかってる人だと思ってた」
「そっちこそ」
「机の傷、私じゃないよ」
「私でもない」
二人で天板を見た。中央に、定規で引いたような細い傷が走っている。右と左を分ける境界線に見えた。
昼の人が青いノートを開く。
――初めまして、と書いた。
佳澄はその下へ、
――毎日会ってたけどね、と返した。
チャイムが鳴り、昼の人は帰る時間になった。立ち上がる前に、彼女は紙の花を境界線の上へ移した。
佳澄もクッキーを隣へ置いた。
その夜、机は初めて半分に分かれていなかった。
青いノートの次の頁には、二人の名前が同じ日付で並んだ。