枕のくぼみ

玲奈の猫「麦」は、夜になると枕の中央で眠る。

飼い主は端へ追いやられ、首を曲げて寝ることになる。新しい猫用ベッドを買っても見向きもしない。

夫の壮眞が単身赴任してから、その癖はひどくなった。壮眞が使っていた側へ身体を伸ばし、枕を二つとも占領する。

「そこは私の場所」

玲奈が抱き上げても、麦はすぐ戻る。日なたと乾いた藁のような毛の匂いが、枕カバーへ移っていた。

金曜の夜、壮眞が一か月ぶりに帰宅した。麦は玄関まで迎えに行ったが、少し離れて座り、すぐには触らせなかった。

「忘れられたかな」

「枕は忘れてないよ」

就寝時、二人は麦がどこへ寝るか見守った。猫は左右の枕を嗅ぎ、壮眞の胸元へ一度乗り、それから二つの枕の間へ丸くなった。

人間二人はさらに端へ寄る。

夜中、玲奈が目を覚ますと、麦の喉が耳元で鳴っていた。壮眞の寝息と少しずれ、部屋に二種類の低い音がある。

翌朝、壮眞は早い列車で戻った。空いた枕には、麦の丸いくぼみと数本の毛が残った。

玲奈はカバーを洗おうとしてやめた。窓を開け、布団へ朝の風だけを通す。

その夜、麦は壮眞の枕ではなく玲奈の腹の上に乗った。重くて寝返りが打てない。

単身赴任が終わるまで、あと四か月。玲奈は麦の背を一度撫で、電気を消した。暗闇の中、昼の日差しを溜めた毛は、人の手より少し高い温度をしていた。

翌週、壮眞から小包が届いた。赴任先の匂いがついたシャツと、麦へのおもちゃが入っている。猫はおもちゃよりシャツの上で眠った。玲奈は洗濯せず、枕の隣へ敷く。夜、麦はシャツと玲奈の腕の間を何度も移動し、最後には両方へ身体を触れさせる位置を選んだ。電話の向こうで壮眞に伝えると、「器用だな」と笑う。切った通話の静けさへ、猫の喉がすぐに満ちた。布に残る人の匂いと猫の熱は、四か月という距離を一晩分だけ短くした。

朝、玲奈は枕の毛を一本だけ指へ巻いた。麦は知らずに伸びをし、シャツの上へ戻る。窓から来た風が三つの匂いを混ぜ、空いた寝室を静かに満たした。