校内迷入個体対応記録

【六月二十日 午後一時三分】

二年生追試会場へ、オニヤンマ一匹が迷入。

南側の窓から入ったと思われる。

天井灯周辺を旋回し、窓ガラスへ複数回衝突。

試験監督は、危険性が低いとして試験続行を指示。

【午後一時五分】

受験者一名が挙手。

「外へ出してから続けられませんか」

監督は、残り時間に影響するため却下しかける。

同時に別の受験者から発言。

「全員の時計を止めれば同じです」

受験者十二名中、十一名が賛成。

一名は虫が苦手で机の下へ避難しており、意思確認不能。

試験時計を一時停止。

【午後一時七分】

窓を全開にするが、オニヤンマは固定窓へ衝突を続ける。

受験者は答案用紙を伏せ、白紙の予備用紙で飛行方向を誘導。

監督が天井灯の一部を消灯。

廊下側のカーテンを閉め、開いた窓のみ明るくする。

机の下の受験者、虫の位置を確認しながら、

「右、もう少し右」

と誘導に参加。

【午後一時九分十八秒】

オニヤンマ、開放窓より退出。

校庭上空を旋回後、確認不能。

試験中断時間、四分十八秒。

全員へ同時間を追加。

【試験終了後】

最初に挙手した受験者は、長期欠席後初めての追試だった。

本人の説明。

「窓へぶつかる音がして、問題文が読めなかった。虫のせいじゃなくて、助けられないのに座っている自分が嫌だった」

机の下へ避難した受験者の説明。

「怖かったけど、皆が殺さずに出そうとしていたから、見ることができた」

【採点結果】

最初の受験者、合格点に二点不足。

補習後、再追試を実施する。

本人は「虫を逃がした四分のせいではない」と申告。

【職員会議】

従来規定では、試験停止事由は災害、設備故障、受験者の急病に限られていた。

協議の結果、以下を追加。

〈人または生き物の安全を損なう状況では、監督者の判断で時計を止める。停止時間は受験者全員へ等しく返す〉

【翌月】

再追試会場の窓辺へ、虫が入りにくい網戸を設置。

合格した受験者十二名が、休み時間に取り付けを手伝う。

窓の隅には小さな札が貼られた。

〈出口が分からないものがいるときは、急がず、明るいほうを一つ残す〉

これは昆虫への注意書きとして作られた。

しかし読む生徒の中には、自分に向けられた言葉だと思う者もいた。