校庭を走るロボット
《09:02 共同リポジトリから削除されました》
大会当日の朝、丹羽創士の端末に表示されたのは、その一行だった。
校庭を自走して救援物資を運ぶロボット《ミナモ》は、創士が障害物回避のコードを書き、三か月かけて車輪を調整した機体だ。だが部長の蜂須賀征矢は、完成した途端に創士を「工具係」へ戻した。
「発表は話せる人間がやる。君は観客席で見てればいい」
名札からも創士の名前が消えていた。
創士は、征矢に削除されるたび自宅の古い端末へ作業記録を複製していた。夜の校庭で車輪が溝へ落ちた回数、雨粒を人と誤認した失敗、電池が冷えて止まった温度まで、全部が日付つきで残っている。部室で笑われた失敗こそ、機体を完成させた設計図だった。
予選が始まる。征矢は審査員へ、制御系をすべて自分が設計したと説明した。号砲が鳴ると、《ミナモ》は最初の板を越え、砂地へ入ったところで同じ場所を回り始めた。
「昨日は動いたのに!」
征矢が非常停止を叩く。
創士には原因が分かった。機体ごとに測った車輪径の補正値が、彼の個人領域にしかない。征矢が持ち出したのは、見た目だけ完成した古い版だった。
審査員が開発記録の提出を求めた。大会規定では、共同制作の履歴を提出できなければ失格になる。
「サーバーが壊れて、履歴が消えました」
征矢は答えた。
そのとき、競技本部の端末が鳴った。創士は大会一週間前、規定どおり読み取り専用の複製を事務局へ送っていた。画面に三百八十二件の更新履歴が開く。
《障害物認識 丹羽創士》
《車輪補正 丹羽創士》
《夜間試験 丹羽創士》
征矢の更新は、表紙の学校名を変えた一件だけだった。
「これはチームのデータだ。部長の俺に権利がある」
審査員長は首を振った。
「部長には、作者を消す権利はありません」
創士が持参した予備機は、補正値を読み込み、校庭の石を避けながら一直線にゴールへ走った。
審査員長が登録表を赤線で直す。
「蜂須賀君は盗用と虚偽申告で失格。競技継続者および代表責任者は、丹羽創士君とします」