校長室の白い手
放課後、校長室の窓に白い手が浮かんだ。
最初に見つけた蟻塚菖蒲は、友人二人を呼んだ。
「去年ここで倒れた校長の霊よ」
「校長、生きてるよ」
「今の校長じゃなくて前の」
「前の校長も町内会長をしてる」
「では、もっと前」
三人が廊下からのぞくと、白い手はゆっくり左右へ動いた。
美術部員が言う。
「演劇部の小道具だ」
演劇部員は首を振る。
「美術部の石膏像の手でしょう」
吹奏楽部員も加わる。
「音楽室から逃げた作曲家の霊かも」
「なぜ手だけ校長室へ?」
「指揮したいのよ」
そこへ教頭が現れた。
「何をしている」
菖蒲は窓を指す。
「校長室に手が」
教頭は青ざめた。
「またか」
全員が教頭を見る。
「“また”って?」
「いや、何でもない」
「教頭先生が隠してる」
「校長を手だけにしたのでは」
「学校の権力争いを怪談にするな!」
教頭が逃げるように職員室へ行ったため、疑いは深まった。
「教頭が犯人」
「美術部が証拠を提供」
「演劇部が動かす係」
「吹奏楽部は?」
「効果音」
「全校規模の陰謀になってる」
生徒会役員が遅れて来て、記録用紙を広げた。
「目撃者の証言を統一しましょう。手は右手でしたか、左手でしたか」
「窓の内側から見れば逆になる」
「幽霊に利き手はある?」
「生前の癖が残るはず」
「まだ幽霊で進めるの?」
白い手が、今度は窓を二回叩いた。
菖蒲たちは悲鳴を上げ、互いを前へ押し出した。
「菖蒲が最初に見たんだから代表して」
「美術部は霊感があるでしょう」
「それは画材の感性」
「演劇部なら幽霊役に慣れてる」
「本物は台本を読まない!」
そこへ校長本人が廊下の向こうから歩いてきた。
「君たち、私の部屋の前で何を」
全員が校長と窓を見比べる。
校長が鍵を開けると、室内では窓拭きロボットがガラスに張りついていた。白い清掃パッドが、手のように往復している。
教頭が戻ってきて頭を下げた。
「先週も生徒が驚いたので、止めるよう言われていたんです」
「なぜ止めなかったの?」
「説明書をなくして」
菖蒲は白い手を見た。
幽霊を作ったのは、清掃ロボットより教頭の沈黙だった。