欠席に丸をつける日

美術館の搬入口で、千景は返信はがきに「欠席」の丸をつけた。

六年間、丸をつけられなかった言葉だった。

大学時代の友人、瑛理の結婚式は、千景が初めて参加する公募展の初日と重なっていた。展示するのは、古い食器を金継ぎした十二枚の皿。売れるかも、評価されるかも、作家になれるかも。そんな期待は口にすると軽くなるので、誰にも話さなかった。

「搬入だけして、式へ行けばいいじゃん」

同僚にはそう言われた。できなくはない。朝一番で作品を置き、電車を乗り継ぎ、遅れて披露宴へ滑り込む。乾杯には間に合わなくても、写真には写れる。

けれど初日の午後、来場者の前で作品について話す時間があった。出展者は自由参加。断っても誰も責めない。それなのに千景は、その十五分のために一年間、割れた皿へ細い金の線を引いてきた気がしていた。

瑛理から届いた招待状の端には、手書きでこうあった。

〈千景の大事な日に、いつも私がいたみたいに、今度はいてね〉

実際、瑛理は卒業制作の徹夜にも、転職面接の前夜にもいた。だから欠席は、恩を数え間違える行為に思えた。

搬入口のシャッターが上がる。白い光の中へ、作品箱を抱えた人たちが次々に入っていく。

千景はスマートフォンを開いた。瑛理への文章を何度も直し、最後には飾りを全部消した。

〈ごめん。式の日、私は自分の作品の前に立ちます。祝いたくないからではありません。あなたに嫌われるかもしれないことまで含めて、ここにいたいです〉

送信すると、すぐ既読がついた。返事は来なかった。

千景ははがきの欠席に引いた二重線を見つめた。郵便受けへ入れる指が震えた。友情を捨てたのではない、と言い訳したくなったが、やめた。選んだものの値段を、選ばなかったものを安くして払うのは卑怯だと思った。

午後二時、千景は十二枚の皿の前に立った。

一番奥の皿には、修復しても消えない欠けがある。最初の客がそこを指さし、「これは失敗ですか」と尋ねた。

千景は喉を整えた。

「はい。だから、私が残すと決めた形です」

そのとき、ポケットの中でスマートフォンが一度だけ震えた。けれど十五分が終わるまで、千景は見なかった。