欠席者のくじ
席替えの日、先生は欠席している生徒の分までくじを引いた。
「窓際、後ろから二番目」
教室が少しざわついた。その席は人気だった。窓の外には銀杏の木があり、秋になると葉が机まで光を反射する。
彼は二週間、学校へ来ていなかった。
先生が机に番号札を置くと、誰かが「来てないなら交換してもよくない?」と言った。冗談だったのだと思う。けれど返事をする人はいなかった。
僕の新しい席は、その隣だった。
机を運ぶと、彼の机だけ前の場所に残っていた。僕は一人で持ち上げ、窓際まで運んだ。引き出しには古いプリントと、半分に折れた定規が入っていた。
次の日も、席は空いたままだった。
窓から入る風で、彼の時間割がめくれた。僕は押さえるために消しゴムを置いた。翌日はシャープペンシル、その次は未開封の飴。休み時間になるたび、誰かが空席を借りたがった。僕は「本人が来るかもしれない」と言って断った。
自分でも、なぜそんなことをしたのか分からない。
以前、彼とは掃除当番が同じだった。会話はほとんどなかった。ただ、僕が雑巾を洗い忘れると、黙って二枚洗ってくれた。それくらいの関係だった。
一週間後、放課後の教室に彼が現れた。
制服ではなく、パーカー姿だった。先生と話すために来たらしい。入り口で立ち止まり、変わった席を見回した。
「俺の、どこ?」
僕は窓際を指した。
彼はゆっくり歩き、机の上の消しゴムとペンと飴を見た。
「何これ」
「風よけ」
「全部?」
「足りなかった」
彼は笑った。二週間ぶりに来た人の笑い方ではなく、昨日もここにいたみたいな笑い方だった。
「いい席だな」
「当たりだよ」
「俺がいない間に使えばよかったのに」
僕は窓の外を見た。銀杏はまだ青かった。
「隣が空いてると、落ち着かないから」
言ってから、重すぎたかと思った。けれど彼は飴を取り、ポケットに入れた。
「じゃあ、たまに埋める」
翌朝、彼は一時間目だけ出席した。次の日は昼まで。その次の週には、窓際の席で眠って先生に叱られた。
席替えがまた行われるころ、銀杏は黄色くなっていた。
彼は次のくじを自分で引いた。廊下側の前列だった。
「外れ」
そう言いながら、少し嬉しそうだった。席の良し悪しより、自分の手で引けたことのほうが大事だと、僕には分かった。