死神の燃えるごみ
市役所の環境相談窓口に、黒い外套の男が大鎌を抱えて現れた。
「これを捨てたい」
死神クロネノスが差し出した鎌は、柄が折れ、刃も欠けていた。窓口の職員は分別表を開いた。
「刃の部分は金属、柄は木材ですね。長さが三十センチを超えるので粗大ごみです」
「魂を刈る神具だぞ」
「用途ではなく材質で判断します」
「触れた者には死の影がまとわりつく」
「では透明な袋に『危険』と書いてください」
クロネノスは初めて、人間を恐ろしいと思った。
「回収日はいつだ」
「来月の第二水曜です。処理券が八百円」
「八百円!」
死神の給料は歩合制だった。高齢化で仕事は多いが、移動費と黒衣のクリーニング代がかかる。今月は砂時計の砂まで値上がりしている。
「ほかにもある」
彼は袋から古い名簿を出した。
「個人情報があるので、細かく破って燃えるごみへ」
「十二万人分ある」
「シュレッダーをお貸しします」
「死者の名を機械へ入れるのか」
「ホチキスは外してください」
次は破れた外套。
「布類の日です」
「呪いが染みている」
「洗ってから出せますか」
「呪いは落ちぬ」
「では再利用はいかがでしょう。こちらのリユース掲示板に写真を」
「誰が着る」
「演劇部から需要がありそうです」
窓口の横には『壊れた刃物、無料研ぎ直し講座』の案内もあった。クロネノスはしばらく黙り、処理券代を惜しんで申し込んだ。
土曜日。公民館には包丁を持った主婦と、園芸ばさみを持った老人と、魂刈りの大鎌を持った死神が並んだ。講師は鎌を見るなり言った。
「刃こぼれがひどい。力任せに振ってるね」
「相手が逃げるので」
「道具は怖がらせるものじゃない。長く使うなら手入れが大事」
死神は二時間かけて刃を研いだ。油を差し、柄を補強すると、鎌は新品同様に光った。
「まだ使えるな」
「捨てる前に直す。それが一番のごみ減量です」
感心したクロネノスは、後日、市役所の終活講座へ講師として呼ばれた。ところが壇上で「皆様のお迎え日を確認します」と挨拶し、会場を凍りつかせたため、担当者から表現を直された。
「『いつかに備えて整理しましょう』でお願いします」
「いつかではない者も三人いる」
「そこは黙っていてください!」
帰り際、クロネノスは環境課へ寄り、古い名簿をシュレッダーにかけた。紙片が雪のように舞う。
「これは燃えるごみでよいのだな」
「はい。ただし袋は指定品です」
「指定袋も買うのか」
死神のため息で、庁舎の観葉植物が一本しおれた。職員は無言で霧吹きをかけた。