残り三秒の相棒

 オンライン脱出ゲームで、私は〈昭和翁〉と組んでいた。

『若い者は、すぐ総当たりをしたがる』

「はいはい。そっちは説明書を読むの長すぎ」

『急がば回れだ』

「制限時間は回ってくれないんだけど」

 昭和翁は古い言い回しを好み、蓄音機や真空管の問題にやたら詳しかった。私は勝手に、盆栽の横で遊ぶ七十代を想像していた。

 向こうも私を十代だと思っていたらしい。チャットで流行語を使い、夜九時の消灯前にログアウトし、職員に端末を取り上げられることがあるからだ。

『学校は大変か』

「まあね。毎朝、全員で体操させられるし」

『青春だな』

 私たちは全国大会の予選を突破した。決勝は会場参加で、初めて顔を合わせる。

 当日、私は職員に髪を整えてもらい、杖をついて受付へ向かった。係員は参加票と私の顔を三度見た。

〈ぴこぴこ姫〉の鶴来うららさん……八十六歳?」

「文字、小さすぎ。若い人にしか読ませる気ないでしょ」

 会場を見回していると、母親に手を引かれた小学生が近づいてきた。紺の帽子を脱ぎ、深々と頭を下げる。

「お初にお目にかかる。昭和翁こと、棗田弦太です」

「何歳?」

「十二歳です」

「昭和を一日も生きてないじゃない!」

 弦太は祖父の時代劇と古道具店で育ち、同級生から「おじいちゃん」と呼ばれているという。私の流行語は、同じ老人ホームにいる職員の娘から習ったものだった。

「ぴこぴこ姫こそ、姫という年齢では……」

「年齢で姫を辞める規約、見せてみなさい」

 決勝の部屋には、黒電話と最新型タブレットが置かれていた。弦太は画面を前に固まり、私はダイヤルの回し方を知らない参加者たちを笑った。

「役割交代だね、翁」

「承知した、姫」

 弦太がタブレットの暗号を解き、私が黒電話の番号を回す。残り三秒で扉が開いた。

 優勝インタビューで、司会者が尋ねた。

「世代が違って、やりにくくありませんでしたか」

 私たちは顔を見合わせた。

「逆です」と弦太。

「知らない時代が二つあるより、知ってる時代が二つあるほうが強いでしょ」

 その晩、施設へ戻ると、昭和翁からメッセージが届いた。

『次の大会も、若い者には負けられぬ』

 私は返した。

『どっちが若い者だよ』