油圧計の嘘

自動車部品工場の深夜、三百トンプレスの床に油が広がった。納品分はあと二百枚。班長は機械修理の鷺沼弓へ、漏れたシリンダーのOリングを替えてすぐ再開してほしいと言った。

弓は油を拭く前に、圧力計の記録紙を外した。漏れ始めた時刻の直前だけ、針が上限を越えて振り切れている。古いOリングなら、圧力に関係なくじわじわ漏れるはずだった。

「先に原因を探します」

「輪っか一つだろ」

弓はプレスのラムを最上部へ上げ、鋼製の支柱を差し込んだ。電源を落としても、配管の中には力が残る。誰かが下へ潜った瞬間にラムが落ちれば、納期どころではない。

配管をたどると、圧力を逃がすリリーフ弁の戻り口に、黒い欠片が詰まっていた。前の勤務で交換したホースの内側が剥がれ、油に乗って流れ込んだらしい。逃げ場を失った圧力が、最も弱いOリングを押し出したのだ。

班長は新しい輪を入れれば持つかと聞いた。弓は首を横に振り、先に弁を分解して欠片を除いた。戻り配管も洗い、ホースの残りを切って断面を確かめる。内側には同じ剥離が続いていたため、予定になかったホース交換まで追加した。

床の油を片付ける際も、弓は吸着材を漏れ口の真下だけに撒かなかった。作業靴で運ばれた油が非常通路まで薄く延びている。滑った作業者がプレス側へ倒れれば、機械が止まっていても危険だった。清掃範囲を広げ、漏れた量と補充した量を照合してから、ようやく支柱を外した。

組み戻したあと、弓は材料を入れずに低い圧力から三回動かした。針は上限の手前で止まり、リリーフ弁から油が戻る音がした。最後に新しいOリングの周囲へ白い紙を巻く。染みは出ない。

午前五時半、プレスは残り二百枚を打ち始めた。班長が礼を言う横で、弓は取り外したホースへ日付を書いた。原因品を捨てれば、昼勤が同じ在庫を使う。

記録を終える前に、隣棟から無線が入った。曲げ機の圧力が戻らないという。弓は油の付いた袖を折り、まだ温かい工具を鞄へ戻した。