渡し守の青い札

川霧が晴れても、ルーメン渡し場の舟は岸につながれたままだった。

 旧領主の舟税は、一艘につき毎朝銀貨一枚。客が一人も来なくても徴収される。渡し守たちは赤字を避けて舟を出さず、向こう岸の診療所へ行けない村人が増えていた。

 腹を痛めた妹を背負い、少年が泣いていた朝、巡察官セラフィは税箱を川へ投げた。

「今日から、舟を持つだけでは取りません」

 渡し守たちは喜ぶより先に疑った。税をなくした翌月、別名の徴収が来るのがいつものやり方だったからだ。

 セラフィは青い札を百枚用意し、規則を舟小屋の壁へ貼った。

 一、乗客五人につき青札一枚を箱へ入れる。

 二、青札一枚は銅貨一枚。乗客が四人以下なら無税。

 三、急病人、子ども、救助のための渡河は人数に数えない。

 四、青札の代金は、渡し綱と桟橋の修理以外に使わない。

「札の残りと銅貨が合わなければ?」

 最年長の渡し守トドが問う。

「私を罷免してください。毎晩、皆の前で数えます」

 巡察官を村人が罷免できる。その一文まで壁に書かれていた。

 札の箱は鍵を掛けず、透明な油紙で覆われた。盗めばすぐ減ったと分かるし、足した者がいても同じだった。

 最初の一週間、渡し守は半信半疑で舟を出した。客が少ない朝は一枚も取られない。市の日に客が増えれば、舟賃も税も増えた。税箱の銅貨が十二枚になったところで、セラフィは同額の領費を足し、傷んだ渡し綱を買った。

「領費を足したことも書くのか」

「隠したら、皆の税だけで直したように見えるでしょう」

 帳面の正直さに、トドは初めて笑った。

 新しい綱を張る日、木こりが杭を持ってきた。魚屋は作業人へ汁物を配り、普段は競い合う三人の渡し守が同じ綱を編んだ。

「命令されたからじゃないぞ」

 トドが念を押す。

「ええ。青札は作業義務ではありません」

「分かってる。俺たちの川を、俺たちで渡れるようにするだけだ」

 夕暮れ、新しい綱に最初の舟が結ばれた。朝の少年が、診療所から元気になった妹と戻ってくる。

 妹は料金箱の横に、青い札を一枚飾った。札には幼い字でこうあった。

『たすける舟は、数えない』

 川風が札を揺らし、渡し場の灯が一斉にともった。