潮を返す青門

湾奥のミュラ港では、大潮のたび海水が魚市場へ入り込んだ。店先の塩樽が浮き、干した網が泥水を吸う。それでも古い堤は破れたままで、漁師たちは「船を出せなくなる壁なら要らない」と修理を拒んでいた。

新任の港務官リュネは、堤を閉じるのではなく、中央に一枚だけ可動門を付ける案を出した。

「昼は船の道、高潮の二刻だけは町の壁にします」

費用表は青い板に書かれた。小舟は月に銅貨一枚、中船は二枚、大船団は船腹の幅に応じて四枚。魚を運ぶだけの荷担ぎ人や市場の女たちには課さない。代わりに門を閉じる訓練へ参加すれば、誰でも港会議の票を一つ持てる。

大船団主のグレンゾは金袋を机に置いた。

「不足分は俺が払う。青門に我が家の印を入れ、閉じる刻も俺が決める」

リュネは袋を押し返した。

「門を多く使う人が多く払う。それ以上は受け取りません。鍵を買える寄付は、寄付ではなく買収です」

市場で魚をさばくオネラが笑った。

「なら私は銅貨を払わない代わりに、閉門の綱を引くよ。海水に樽をさらわれるのはもう御免だ」

その一声から、網元は滑車を提供し、船大工は余った樫材を削り、子どもたちは門へ塗る青い顔料を貝殻から集めた。支出は一枚ごとに板へ打たれた白い釘で示され、最後の釘が打たれたとき、余りはなかった。

完成前には、引き潮の時刻を選んで三度の閉門試験をした。一度目は綱が重く、二度目は市場側の合図が聞こえなかった。失敗のたび青板に原因と直した箇所を残したため、誰も責任を押しつけ合わなかった。三度目、子どもでも鐘の色で手順が分かるようになり、グレンゾの船員たちも自分から訓練列へ加わった。

完成三日後、沖の鐘が高潮を告げた。訓練どおり七人が綱を引く。青門が海面へ降り、押し寄せた波が轟音を立てて砕けた。市場の床は乾いたままだった。

夜明け、門が上がる。内側で待っていた小舟が一列になって海へ滑り出した。

オネラは堤の柱へ新しい札を掛けた。

――閉じる時刻も、開ける時刻も、皆に見える門。

朝日に濡れた青門の下を、最初の漁船が帆を広げて通った。