火竜の喉へ海を引く

用水番オルヴェンは、王都の祝勝式でも水門の錆を落としていた。

騎士たちは川から畑へ水を回すだけの彼を「溝鼠」と呼ぶ。干ばつの年に一滴も無駄にしなかった功績は領主の治世として記録され、堤が切れれば用水番の怠慢にされた。

彼の技能も、農村の外では役に立たないと思われていた。

【水路引き:水源一つと乾いた畝一筋を結び、畝が満ちるまで水を流す。距離と高低差は問わない】

祝勝式の主役は、敵国から奪った火竜だった。王太子は竜を鎖で広場へ引き出し、民衆の前で従えたと誇った。だが竜の口には、炎を増幅する赤い杭が打ち込まれている。苦痛で暴れる獣を服従と呼んでいただけだ。

杭が折れた。

火竜の喉が白く輝き、空気が一息で乾く。王都を覆うほどの竜炎が、次の瞬間には放たれる。宮廷魔術師の氷壁は熱だけで蒸発し、王太子は民衆を盾にして王宮へ逃げた。

オルヴェンには、竜の首を走る鱗の溝が見えた。乾き切った大きな畝だった。水源なら、王都の西に海がある。

彼は用水杖を石畳へ立て、海と竜の喉を一本の水路として結んだ。

青い線が地平を越える。

遠い海面が持ち上がり、細い奔流となって空を走った。水は街へ一滴も落ちず、竜の鱗の溝へ吸い込まれる。乾いた畝を満たすという技能の文言どおり、奔流は喉の奥、炎袋の隅々まで流れ込んだ。

爆発寸前だった光が、湯気の音を立てて消える。

火竜は苦しげに咳き、増幅杭の破片を吐き出した。広場へ降りると、オルヴェンの前で静かに首を伏せる。海水は鱗の間から水路へ戻り、王都の井戸には塩一粒混じらなかった。

王宮の階段では、逃げた王太子が濡れてもいない裾につまずいていた。

広場の民衆は、竜が自分からオルヴェンの杖へ鼻先を寄せるのを見た。王太子が掲げていた服従証書は、吐き出された杭の熱で端から燃える。農村の用水番たちは城門を越え、今度は誰にも頭を下げず彼の隣へ並んだ。 竜の鎖も外れた。

《職業が【用水番】から【海脈灌漑神】へ書き換わりました》