火竜討伐隊の冷たい皿
料理人トルカンを「戦えない余分な一人」として麓に降ろした竜騎士ヴァザックは、その日の正午に火竜へ挑んだ。
最初の火炎を、耐火外套で受ける。布は燃えなかった。鎧も溶けなかった。それなのに、騎士たちは次々と倒れた。皮膚は無傷のまま、体内だけが煮えたように熱い。
水を飲ませても吐き戻す。治癒術師は青ざめた。
「熱が抜けない……なぜだ」
出発前、トルカンが毎回出していたのは、氷瓜と白豆を潰した冷たい皿だった。見栄えが悪く、ヴァザックは「竜討伐の朝に家畜の餌か」と笑っていた。
氷瓜は身体を冷やすだけではない。白豆の油と合わせることで、耐火外套が弾いた熱を汗として逃がす。外套は炎を止め、料理は内側の熱を捨てる。二つで一組だったのだ。
火竜は、倒れた騎士たちを不思議そうに見下ろしていた。
ヴァザックは氷魔法を鎧の内側へ放たせたが、急に冷やされた兵は痙攣した。火を防ぐ装備に金を惜しまなかった彼らは、熱を逃がす食事を無料の付け合わせとしか見ていなかった。討伐は二度目の火炎を待たずに終わった。
一方、トルカンは麓の鍛冶町で、炉前の職人たちに同じ冷製料理を配っていた。昼になるたび倒れていた若い鍛冶師が、今日は槌を置かない。
工房主は皿の底まで舐めるように食べ、厨房の入口へ銅板を打ちつけた。
――炉熱管理料理長。
「火の前で働く者を、飯で守れる職人は初めてだ。うちでは包丁も槌と同じ道具として扱う」
トルカンが返事をする前に、焼け焦げた伝令竜が屋根へ落ちた。ヴァザックの声を記録した魔石が転がる。
『条件を改める。戦利品の一割をやる。すぐ冷たい豆料理を持って山へ戻れ』
工房主は黙って、新調した包丁をトルカンへ差し出した。柄には工房の紋章と彼の名が彫られている。
トルカンは包丁を受け取り、魔石へ静かに答えた。
「条件を改める余地はありません。火竜討伐隊との契約は、私を下山させた瞬間に終了しています」