灰になった祝宴の席

王都一の料理人になるはずだった夜、トウマは二百人分の肉を灰にした。

建国祭の主菜を焼く直前、厨房の火晶石が暴走した。炎は鍋を舐め、香草もソースも、三日かけて仕込んだ肉も黒くした。客席からは楽団の音が聞こえる。給仕長は青ざめ、厨房の者たちは次々に逃げた。

トウマは焼けた床に膝をついた。焦げ臭さが喉に張りつき、客席から聞こえる乾杯の音が遠い。見習い時代、塩を一皿入れすぎただけで厨房から追い出された夜を思い出す。今回は被害の桁が違う。雇い主である三人も、これで終わりだろう。

彼は白衣を脱ぎ、調理台へ畳んだ。包丁も研ぎ石も、借り物ではない。それでも置いていくつもりだった。

最初に現れたのは近衛隊長エステルだった。彼女は腰の剣ではなく、王宮厨房の鍵束をトウマの手元へ置いた。

「閉めるなら、お前が閉めろ。私はまだ食べていない」

続いて商会主ジュリエが、焦げた肉を一切れ切り取って口へ運んだ。苦さに眉をしかめながら、契約書へ印章を押す。

「火晶石の不良は私の仕入れだ。損失は折半。次の祭りの注文も、今ここで押さえる」

「次なんて、あるのか」

「予約は早い者勝ちでしょう?」

最後に王女ナディアが、誰もいない祝宴席から椅子を一脚運んできた。煤だらけの厨房中央へ置き、銀の皿とフォークを並べる。

「肉がないなら、あなたが賄いで作る豆の煮込みを」

「殿下に出せる料理じゃありません」

「今夜、私が食べたい料理です」

トウマは笑えなかった。失敗を帳消しにしてほしいわけではない。明朝には王宮へ報告し、食材商にも頭を下げ、代替料理の費用を計算しなければならない。謝らずに済むとも思っていない。けれど、次の仕事も、厨房の鍵も、食べる席も、まだ目の前にある。

「俺の料理を、まだ食べるのか」

三人は返事の代わりに、空の皿をこちらへ押した。

奥の鍋には、従業員用の豆が残っていた。彼が火を点けると、エステルは扉の前に立ち、ジュリエは焦げた鍋を洗い始め、ナディアは椅子を三脚追加した。

祝宴の料理は失われた。

それでも灰の中に、四人で囲む最初の席だけが残った。